なんだかんだと

2013.07.06.Saturday


「ターレス」

 耳慣れた静かな声で名前を呼ばれ、振り返ってみると、ブロリーが立っていた。
 足を止めて何だと問い返したが、ただ黙って近づいてくる。他の相手ならイライラさせられていただろうが、ブロリーは元々極端に口数が少ないから、大して気にもならなかった。

「これから遠征か?」
「いや、さっき戻ったところだ。おまえはこれからか?」 
 ブロリーはターレスの問いに首を左右に振り、やはり無言のままターレスの腕を掴んだ。
「どうした?」
「予定がないのなら、家に来ないか?」
「おまえの? 別に構わないが、おまえの家に誘うのは珍しいな」
 皮肉ではなく本気で驚き、軽く目を見開いたターレスをブロリーが何も言わずに抱き寄せる。身長差のせいもあって、抱き締められるとブロリーがいつも身に着けている装飾品が頬にあたり閉口させられるが、無器用な男の精一杯の愛情表現だと思うと、イチイチ文句を言う気にもならなかった。

 ……そう思う時点で、オレも甘いけどな。

 抱き返すわけではなく、広い胸に身を預けたまま、シニカルに笑う。

 ブロリーに最初に抱かれたのはもう何年前だったろうか。
 まだ若かったブロリーが抑圧された力をもてあまし、戦闘トレーニングの相手を殺してしまい、我に返って呆然としているところに出くわした。

「エリートなおまえらならそういうこともあるだろ」
「違う……ッ、オレは、――こんなこと、知れたら……終わり、だ」

 血の気の引いた顔でブツブツしゃべり続けるブロリーを黙って見ていたターレスは、肩をすくめ、始末しといてやるから行けと言った。

「始末……?」
「こんなことの後始末くらい朝飯前だ。こっちは育ちが悪いんでな」

 小馬鹿にしたように言って、ターレスが何をするか知りたがっていたブロリーを部屋から押し出し、他言無用を条件に家に帰ると約束させた。
 白目をむき、自身の血の海に溺れている男を冷やかに見下ろし、頭をブーツの先で小突く。ブロリーを助けてやろうと思った一番の理由は、犠牲者が、エリートという立場を利用して昔手ひどいやり方でターレスを犯したことのある男だったからだ。

「豚の最後には相応しいじゃないか」

 残酷に笑い、血濡れの男の首根っこを掴んだまま窓に近づく。
 周囲を見回し、人気がないことを確認したターレスが短く口笛を吹くと、どこからともなく鋭い牙を持った獣が窓の下に現れた。
「今日はパーティだぜ」
 忠実な肉食獣たちを見下ろし、ニヤリと笑う。
 戸惑うことなく投げおろした男の死体に群がる動物たちの勢いを見れば、肉が引き裂かれぼろ屑同然になるのにもそう時間はかからないだろう。
 ターレスは自身の手が血に染まっていることを気にすることなく、トレーニング施設の自動クリーニング装置を発動させ、振り返らずに部屋を出て行った。


「……家に帰っていろと言っただろう?」
「おまえのこと、何も知らないから」
「オレは知っている。生まれながらに驚異的な戦闘力を持っていると評判の、おまえのことはな。そんなエリートの坊ちゃんが知るような輩じゃないさ」
「だけど、このままじゃ借りが!」
 必死で訴えるブロリーを見上げ、幾ばくかの興奮状態にあったターレスは、唇を歪めて笑った。
「借りねぇ……。なら、返してもらおうか」
「え?」
「オレの家に来い。話はそれからだ」
 戸惑うブロリーに背を向け、歩き出すと、慌てて足音が追ってくる。
 並んで歩き出したブロリーの顔を横目で観察してみると、何をさせられるか分からない不安を感じているようだ。

 ま、いくら力があっても、まだ青いな。

 ほくそ笑んで家に引き入れ、結局その夜、相手の欲や望みなど確かめもせずに自分を抱かせた。ブロリーにとっては初体験だろうが、最初に驚きを見せた以外、嫌がる訳でもなく、ターレスの言うがままだった。


 ……あんな始まり方だったのに、おかしな奴だよな。

 当然これっきりだと思っていたターレスの予測を見事に裏切り、あの日以降、ブロリーは時々訪ねてくるようになった。
 意図の分からない行動だったが、セックスを重ねるごとに肌の相性もよくなり、気づた時には、拒絶する理由もなくなっていた。
 惰性なのか、何かしらの想いがあるのか。
 それさえ考えたことはない。
 明日遠征で散るかもしれない我が身で、そんなことを考えても仕方なかったからだ。

 古い記憶を辿りながら、ブロリーと並んで青空を飛ぶ。
 眼下に見えてきた大きな家の前に降り立ち、ブロリーがセキュリティを解除すると、ちょうど中から出てきた男とぶつかりそうになった。

「ブロリー、帰ったのか、……本当に連れて来たのか?」
 ターレスを見て、潰れていない方の目を驚きで見開いているのは、ブロリーの父親だ。
 不躾な目で自分を見るパラガスを睨みつけ、ターレスはブロリーに視線を移した。
「誰もいないから呼んだんじゃないのか?」
「いや……。親父に紹介したくて……」
「はあ!?」
 思いもかけない答えに素っ頓狂な声を上げたターレスは、向かいで二人のやりとりを聞いていたパラガスが噴き出すのを聞いて、険悪な顔になった。
「何が可笑しい!」
「いや、ブロリーが恋人を紹介すると言ってたんだが、本当に本気だったんだと思うとな……」
「こ、こいっ……」
「恋人になってくれ、ターレス」
「順番がおかしいだろ!!」
 あまりのことに珍しく興奮しているターレスを有無を言わせず抱き寄せ、ブロリーはちょうど顎の下にくる跳ねた黒髪に口づけた。
「順番なら最初からおかしい。セックスから始まってるんだから……」
「〜〜〜っ!!!!」
 思いがけず鋭い指摘を受け、ぐうの音も出ないターレスは、せめて可笑しくて仕方ないと言った様子で二人を見ているパラガスの目を逃れようと、ブロリーの腕を掴んだ。

「いいからおまえの部屋で話すぞ!」
「うん。……何ならオレがターレスの家に一緒に住んでもいい」
「何の話ししてるんだ!」
 血管が切れんばかりの勢いで怒鳴っているターレスの肩を強引に抱き寄せ、ブロリーは家の中へズンズン歩き出した。



なんでギャグチック?w
最初の描写とのギャップが酷い(>▽<;;

20:49|comment(2)

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