ε-(´・`) フー

2013.06.29.Saturday


 ……わかるはずがないのに。
 間近に迫った男の褐色の肌を引き立てる黒い瞳を見返し、ゴクリと唾を飲む。

 人間でいうところの大脳部分には、まことしやかに淡いピンク色のゼラチン質のような手触りの人工知能が埋め込まれ、指先一つ動かすだけの動作の裏にありうる様々な人の感情がインプットされている。

 だが、人工皮膚に覆われた体内であたかも人であるかのようにカカロット動かすメインコンピューターは、これからカカロットがどう行動すべきかの指令を出せず、制御不能に近い静止状態だった。

「――急に無口になったな」
「ターレスが、何、を……しようと、してるか分からなくて」
「さぁ? 少なくともダンスの誘いじゃないさ」

 薄い唇を引き上げる動きは『笑い』のはず。
 だが、ターレスの黒い瞳に『可笑しさ』を感じ取った動きはなく、かといって、『皮肉』だけでも測りきれない。
 人間の感情がそう容易く分析できるものでないことは、重々承知していた。
 そう、ソレを知っているという認識もカカロットにとっては莫大なデータの一つに過ぎない。

 ターレスの浅黒い手がタンクトップからむき出しの白い肩に触れ、そのまま二の腕へ滑り降りる。触れられた傍から自動的に相手の手の平の温度や滲んだ汗、触れる強さを感知し、電子頭脳に分析した感情を伝えてくるはずが、不思議なことにいつまで経っても結果は送られてこなかった。

 そうこうしているうちに、ターレスの唇が緩い弧を描いたままカカロットの唇に触れ、薄く開いた唇から口内に滑り込んでくる。
 硬い動きで一歩足を引きかけたのは、『初めてキスという行為を受ける人間の反射』を模した行動だ。
 もちろん、世の中には同性同士で深いスキンシップを測る者がいることは分かっている。ターレスがその分類にあてはまる男だということも……

 だが、カカロットを動かすデータは、何故その対象が自分なのか弾き出せていなかった。

「――んっ」
「ふん、さすが……世界中の科学者の頭脳を集めて作っただけはあるな」
「え?」
「……そんなトップシークレットを何故オレのような奴が知ってるのかって顔だな。教えてや……ぐっ!!」
「ダメだ、それ以上喋るな、ターレス!」
「――っ、んっ、ぐ、離せ!何だ?」

 ターレスの言わんとすることを理解したカカロットは、青い目を大きく見開き、慌ててターレスの口を片手で塞いだ。ターレスはその手を強引に引きはがすと、もう一方の手も掴んでカカロットを後ろの壁に押し付けた。

「ダメだ、ターレス。黙って、くれ……お願いっ」
「コンピューターウィルスでも入り込んだか? ……感情に左右されず、それでも人の感情を理解することを目的に作られたんだろう。――まあ、ここまで綺麗な人間、生身じゃないと言われても納得だからな」
「喋るなよ!頼むからっ」

 大気中から取り込んだ水蒸気を涙に変え、必死で訴えるカカロットの印象的な青い目がみるみるうちに濡れていく。
 ただ、本来、関係者以外に秘密を知られた場合、アサシンシステムが作動し、ターレスを跡形もなく消しているはず……。今のような『怯え』や『悲しみ』『動揺』の回路が働くはずはなかった。

 ターレスは暫く黙ってカカロットを見ていたが、フッと笑って羽織っていたシャツの袖を捲り、左腕をカカロットの前に突き出した。

「――あ……」
「分かったか?」

 軽く首を傾げて問うターレスに黙って頷いて見せる。
 恐る恐る伸ばした手でターレスの腕に触れ、形のいい筋肉に手を這わせる。
 カカロットの指が触れる皮膚はどこも全て"人肌"の温もりを感じさせ、不自然なほど同じ体温だった。

「……ターレス、も?」
「いや。おまえと違って……腕以外は生身の人間だ。ただ、……オレのこの腕は、おまえを開発するプロジェクトで一番活躍した科学者が作ったものだ。研究のことになると、少しマッドな奴だったから……オレは身よりもないし、たとえロボットアームを付けるのに失敗しても何とでもなると思ったんだろう」
「そうか……」
「おまえの中に入ってる人工頭脳を構成するものとプログラム自体はもっと単純だろうが、オレの腕を動かしているものは基本的に同じ。――出会うチャンスがあれば、惹かれずにはいられないだろう?」
「分からない」
「質問が適切じゃないか? ……なら、どうしてオレを消さない。そういう風に出来ているはずだろう」
「わか……っ、いや、分かるっ、やっと、見つけた……たとえ、一部だとしても、オレと同じ……境遇の、奴、だから」
「ロボットでも孤独は怖いか?」
「……分からない」

 目を伏せ、項垂れたカカロットの柔らかな金髪を撫で、ターレスは顎を上げさせて口づけた。

「セックスのデータも入ってるだろ?」
「――ッ、オレ……と!?」
「温められるか、試させろ」

 逞しい腕に抱きしめられた途端、このまま爆発してしまうかと思うほどボディが熱を持ったと感じた。だが、カカロットは要因を排除することなく、まるで自分を抱きしめた男の身体がセキュリティシステムでもあるかのように、力を抜いて身を任せた。



 変な話しwww
 こんな風な完全サイボーグじゃなくても、心は残されたままのアンドロイド設定で良かったんだよなw17号さんみたい(笑)
 いや、どうもサニーに惚れましたのでw


 

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