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どれぐらい、そうしていただろうか。
八時ちかくにピンポーンと玄関のインターフォンが鳴った。
ドキっと心臓が高鳴る。
…マックスかもしれない。
期待を胸に、俺は恐る恐るインターフォンの画面を覗く。
…マックスだ!
画面一杯に大きく写る、手を振るマックス。
俺は玄関に走り出す。
来てくれた。
マックスが俺のところに戻って来てくれた。
飛び出してきた俺に吃驚しているマックスに抱きつく。
「マックス!!」
さっきまで泣いていたせいか、俺の涙腺は簡単に緩む。
「どうしたの?
とりあえず、中入ろ?」
マックスは優しく抱きとめてくれてるのに俺は涙で返事もできず、抱きついたまま声も無くただこくこくと頷いた。
家に入っても、マックスに触れていないとここにいるのは自分の願望が見せた幻で、すぐ消えてしまう気がして手が離せない。
マックスはそんな俺の手をずっと握っててくれるから、嬉しくて涙が止まらない。
「何があったの?」
俺はいつも自分の気持ちを中々言えないけど、マックスの初めて聞いたすごい優しい声に思わず素直な気持ちが零れた。
「マックスが…、マックスが…」
「ボクが?」
「もう、こ、来ないかと思って…。
俺、俺、き、嫌われたと思って…」
「なんでそーなるの!?」
いきなりマックスが素っ頓狂な声で叫ぶ。
さっきまでスッゴク優しかったのに、なんで急に怒り出すんだ。
今日一日悩んだ俺を否定されたようで、ついムキになって言い返してしまう。
「だって、
だって昨日だって結局何にもしなかったじゃないか!
それに俺が寝た後にリビングに移って寝たでしょ?
俺の隣じゃ嫌だったんでしょ!?」
一旦不安を口にしてしまうと雪崩のように出てきて止まらない。
次々出てくる支離滅裂な不安の羅列にマックスは口も挟めず唖然としている。
本当に聞きたいことからどんどん離れていくのに自分でも止められない。
喧嘩がしたいわけじゃないのに、マックスを責めてしまう自分が嫌だ。
でも自分の口なのに止まらない。
自分の中に積み重なった不安がマックスを責める言葉に変換されてるみたい。
こんな風に責めて嫌われたらどうしようっていう弱気な気持ちが、新しい不安になって俺の口を加速させる。
感情が高ぶってまた涙が浮かんできた頃、いきなりマックスがキスをしてきた。
びっくりして言葉も涙も引っ込んでしまう。
「ボクが仁に飽きるなんてこと、ある訳無いだろ。
こんなに、こんなに好きなのに」
そう言って今度は深いキスをしてくれる。
ずっと欲しかった言葉。
ずっと俺はマックスが俺の事を好きだっていう証拠が欲しかった。
やっと貰えた「好きの証拠」に、俺はびっくりしてマックスの服を掴んだ。
「本当に?
信じていいの?」
疑り深く聞いてしまうのは、なんで好きって言ってくれたか分からないから。
いっぱいいっぱい俺はマックスの事を責めたのに。
今までの不安を止まらなくなる程マックスにぶつけたのに、なんで好きって言ってくれたんだろう。
俺は縋る気持ちで服を掴んだ手に力を込める。
「証拠、もっといる?」
マックスは俺の背中に手を廻し、癇癪を起こした子供を宥めるように背中を撫でて優しく微笑んだ。
そしてまだ事態を飲み込めていない俺を、その場にゆっくりと押し倒した。
服をたくし上げ体中にマックスがキスをしてくる。
増えていく「好きの証拠」。
それと同じスピードで俺の中に自信が増えていく。
マックスにちゃんと好かれている自信。
だからかな?普段は到底聞けそうもないこんな質問も、今は口にすることが出来た。
「ねえ、俺のこと…好き?」
「好きだよ」
首筋にキスをしながらマックスがなんでも無いように答える。
その気軽さが素直に信じられなくて、俺は重ねて聞いてしまう。
だって俺はこの質問を口にするのにもう何ヶ月も悩んできたんだ。
こんな簡単に答えるなんて思ってもみなかった。
「ほんとに?」
「うん、ほんと」
マックスがクスッて答えながら小さく笑う。
「ここも」
そう言って俺の耳の淵を舐める。
「ここも」
俺の手を取り指を咥えたまま舌でなぞる。
「ここも」
首筋を下から上へ舌で舐め上げる。
そして、そのまま顔を近づけ俺を見て言う。
「仁の全部が好きだよ」
その言葉で俺の中の不安が全部解けてく。
彼が簡単に言うのは、当たり前の気持ちだからなのかもと漸く腑に落ちたから。
マックスの言葉にはそんな当たり前な事だからこその確信めいた軽さがある。
そこにあるのが当たり前の気持ち。
だってそれは俺の中にもある。
どれだけ悩んで、そんな自分が嫌になっても変わらなかった気持ちだ。
俺とマックスは全然違う。
俺は今だってマックスの思考回路が全く理解できない。
何を考えてるかさっぱり分からない。
でもそれでも、同じ気持ちだってちゃんとあるはず。
昨日の晩だって複雑そうなマックスに同じ気持ちかもって嬉しくなったじゃないか。
俺はやっと彼の言葉を信じる事が出来た。
「マックスは俺の事、友達としか思ってないんじゃないか」とか。
「俺になんか魅力を感じてないんじゃないか」とか。
俺の中にいっぱいあった不安なんて、もう一欠けらもない。
解けた不安は、雪解けみたいに昇華して熱に変わってく。
安心してマックスが与えてくれる欲に交じり合っていける。
さっきまでちゃんと話せたのに、今ではもう熱くて熱くて息が抑えられない。
俺はごそごそと俺の身体をまさぐり始めたマックスを胸に抱えて言う。
「ねえ、俺の全部をあげるから
俺にマックスをくれる?」
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