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でも、全ては杞憂でしかなかった。
キスをして手際良くパジャマのボタンを外すと、途端にマックスは動きを止めてしまう。


「…マックス?」

「仁〜、これからどうすればいいの?」

俺が声を掛けると情けない声で俺に泣き付いてくる。
俺はそれを聞いてちょっと笑ってしまう。

そんなこと。
マックスとなら何だって嬉しいのに。
最後までしたって。
最後までしなくったって。
例え欲望を吐き出すことがなくったって。
俺にマックスが触れているってだけで嬉しいのに。
俺にマックスが欲情してるってだけで嬉しいのに。


俺は情けない顔をしているマックスに初めて俺のほうからキスをする。
勇気がなくてほっぺだったけど。


「マックスのしたいようにして」

俺がそう言ってもマックスは未だ情けない顔のまま。

「だって何をしたらいいかわかんないんだもん。
そもそもゴールはどこなの?
どこを目指していいかもわからないのに続けらんないよ〜」

……。
俺は覚悟を決めたというのにマックスのほうは全然だったらしい。
あんなにお風呂で怖がっていた自分が馬鹿みたいだ。


「何も知らないで始めたの?」

言葉に棘があるのが自分でも分かる。


「仁は知ってるの?じゃあ、教えてよ!」

「それを今、俺に聞く?」

マックスが無神経なのは知ってたけど、流石にこの言葉は呆れてしまう。


「じゃあ、いつ誰に聞くの?」

でも尤もな言葉を返されて俺は言葉に詰まってしまう。
なんて言っていいやら思案していると、マックスがポンと手を叩いて口を開く。


「そーだ!!
だったらさ仁がどんどんボクに指示出してよ。
次アレやってとか、どこそこ舐めてとか」

な、舐めて…、って。
あまりの言い草に俺は絶句してしまったというのに、マックスから醸し出される良い事言った感が半端ない。

俺だって初めてなのに…。
マックスを責める言葉が喉元まで出掛かる。
そんな相手に指示が出せる程分かるはずないのに。
しかもそれって俺が次にして欲しいことをマックスに言うってことで、そんなのとても恥ずかしくって耐えられない。


「それ…無理。恥ずかしくって死ぬ」

「じゃあ、今説明してよ。
分かったらその分一生懸命頑張るから」

説明って言ったって、何を説明すればいいのか分からない。
俺が体験したのは愛のない歪んだセックスもどきだけだし、知識として覚えた分は人に教えるにはあやふやすぎる。
その知識だって引き篭もってる時に自分がされた事やされそうだった事を確認する為に調べたもので詳しいって訳じゃない。


俺は溜息を一つ吐くと、パジャマのボタンを嵌めながら机に向かう。
そして、昨夜近隣の中学を調べるために使ったノートPCを立ち上げた。


俺が机の椅子に座っているから、マックスは画面を見るために俺の肩に手を回し、肩越しに覗き込んでいる。
俺に凭れ掛かる様にして抱きついてくるから、マックスの重さも温かさも感じてしまって、まるでさっきの続きをしてるみたいだ。
しかも肩のところに顔があるから、時おり息が首筋に当たって堪らない気分にさせる。
実際には出来ないけど、何度マックスの顔を自分の肩から遠ざけようと思ったか。
平静を装うって、相手が近ければ近い程難しいってマックスは知らないのかな。


マックスはそんな俺には全く気づかず画面に集中してしまっている。
マックスは飽きっぽい分、嵌ってる時の集中力はすごくて、そんな時は周りの声が耳に入らない時が多い。
今もそんな感じで、俺はこんなに近くにいるのに、触れてさえいるのに、
たぶんすごく遠い。
俺をこんなにドキドキさせているのに自分は全然違うことに夢中なんて、ほんとマックスらしくて笑ってしまう。


俺は一秒でも早くこの甘いのに切ない状態から抜け出したいのに、『今度は動画』なんて簡単に言う。
ああ本当、マックスはずるい。


自分で言い出したくせにいざ動画が始まると、うげって声と共にマックスの手がどんどん緩み始める。


「もういい、もういいや!」

そう言うと遂には椅子の陰にしゃがみ込んでしまう。
思っていたのとは違う形で解放された俺はノートPCの電源を落としてマックスに振り返る。


「大丈夫?」

「大丈夫じゃないかも」

マックスは今にも「うえっ」て聞こえてきそうなしかめっ面をしてる。
俺はマックスが気になってあまり見てなかったけど、適当に選んだ動画はそうとうエグかったらしい。


PCも落としてしまったし、先にベッドに戻るのも気恥ずかしい俺は、
しゃがみ込んだまま「うげ〜」とか「うえ〜」とか言って動かないマックスに声を掛ける。


「じゃあ、どうする?」

「どうって?」

「…続き、する?」

そう言うとマックスが驚いた様に顔を上げる。
……忘れてたらしい。
本当どこまでもマックスらしい。
なんとなく気勢を殺がれてしまった俺は、自分がどうしたいのかもわからないまま訊ねる。


「もう遅いし、今日は止めとく?」

思い切った質問に胸がドキドキしてる。
自分でもどちらの答えを期待しているのかわからない。


「う、…ん。そのほうがいい、かな?」

そう気まずそうにマックスが答えた時、やっぱり俺の心は複雑で。
ガッカリしたのも確かだけど、どこかで少しホっとしたのも確かだった。


「じゃあ、もう寝よっか」

俺がそう言うとマックスも同じようにどこか複雑そうな顔をした。
俺は変かもしれないけどそれが少し嬉しくて、マックスも俺と同じように緊張したり、嬉しかったり、怖かったりするんだなってどこか安心していた。


先にベッドに入った俺の後から、気まずそうな顔でマックスが同じ布団に入ってくる。
迷ってるマックスはどこか可愛くて、俺はこんな時だというのに穏やかな気持ちになっていた。
向かい合って横になると顔の高さが同じで、そんな事も俺の胸中を穏やかにさせた。
だから、気負うことなく自然と俺の方から手を握っていた。


「おやすみ」
って俺が言うと
「おやすみ」
ってマックスが言ってくれる。

今日はなんだか色々あったけど、
俺が今回のお泊りでマックスに求めていたのはこんな瞬間だったなあ、なんて思ったら胸が温かくなって自然と笑みが浮かんでくる。
昨日あまり寝ていない事もあって、俺はすぐ幸せな気持ちで眠りについた。





 

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