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髪と全身を洗い、湯に浸かる。
普段どおりの風呂での手順をいつもよりも三倍くらい丁寧に踏んでしまったら、もうこの後はお風呂から出るばかりだ。
湯に浸かりながら、風呂から出た後のことを思う。
…この後どうなるんだろう?


昨日まで振られてしまう心配ばかりしてた。
どうせ友達でしかないんだって、恋人と思ってくれてた時のことなんて全然考えてなかった。
友達としてでもいいから、せめてもう一度好きって言って欲しいくらいにしか思ってなかった。


でもよくよく考えてみると親がいないから泊まりに来てと誘ったのは自分で。
それってつまり邪魔がいない隙にエッチしようってことと一般的には同義語で。
どう考えたって俺からマックスを誘ったってことになる。
そこまで考えて俺はぶくぶくと湯に沈む。


…今更、そこまで考えていませんでしたなんて、マックスに言えない。

息が続かなくなって、ぷはっと顔を出す。

どうしよう、この後本当にマックスとエッチしちゃうのかな…?


俺は今まで自分でも触ったことの無い、自分自身の後ろの窄まりにそっと手をやる。
そこに触れると、穴は本当に小さくて自分の前についている器官と同じものが入るとは到底思えない。


マックスのアレが本当にここに入るのかな…?
少し指に力を入れると、そこはきゅっと拒むように反応する。
なんだか怖くなって慌てて指を離す。


俺が初めてって言ったら吃驚するかな…?


マックスは俺が先生に襲われたことを知っている。
俺が話したから。
でも、具体的に何があったかまでは知らない。
そこまでは話したくないから。


あの日、放課後学校に残って先生の手伝いをしてたとき、いきなりキスされて、混乱してるうちに脱がされて、触られて、人生で初めての射精をさせられた。
それから先生のモノを口に入れられ、無理やり頭を押さえつけられて口に出された。
その日はそれが全て。
性の知識がほとんど無かった俺はそれでも怖くて怖くて堪らなかった。
口に出されたものは今まで味わった事がない、形容しがたい変な味がした。
口の中にある事さえ嫌で吐き出すと、先程初めて見たばかりの俺から出た白いモノに似ていた。
一緒に見えた。
俺から出た白いモノと口に出された白いモノは同じモノで、全てが俺から出た悪いモノに思えた。
そして突きつけられた「瞳が誘ってた」って言葉。


今まで信じていた自分自身なんて本当は居ないんじゃないかって思えた。


自分が悪いと思ってしまった俺は親にも言えなくて、次の日も学校に行くしかなかった。
そして、学校にいつもどおり来た俺を見て、先生は嬉しそうに笑った。
先生をできるだけ避けようとしても、教師という立場にいる人を子供の俺が避け切るのは至難の業で。
それから何回も俺は無理やり触られた。
写メも撮られて、さらに俺は誰にも言えなくなった。
先生が俺のことをだんだん共犯者のように扱うようになってきたある日
『いつもいい子の影野君に次はご褒美をあげよう』
そう言って俺の後ろの穴に触れてきた。
『ここにね』
そう言って笑う先生が怖くて怖くて何もわからない癖に、もう学校には行けなくなってしまった。


そうして俺は地元の公立ではなく私立の雷門中に進学してマックスに出会った。
出会ったときには既に俺の前髪は随分長くなり、俺の瞳を知っているものは家族を除いて誰もいなくなっていた。
そう、もう随分昔のことだ。


だから、たぶん大丈夫。
きっと、大丈夫。
…怖く、ない。


俺はもう一度ぶくぶくと湯に沈む。
次に顔を上げたらお風呂から出よう。
そう思いながらも、できるだけ長く息を止め続けた。


お風呂から出てリビングに行くと、そこにはマックスの姿は既になかった。
ベッドのある俺の部屋に行ったんだと思うと心臓が大きく音を立てる。


俺の部屋に行くと案の定ベッドの上に寝転ぶマックスがいた。
俺に気づくといつもよりちょっと低い声で俺を呼ぶ。
まだ、覚悟が決まっていない俺は沢山の不安とほんの少しの期待を胸に、
ゆっくりと少しづつマックスに近づく。
ベッドまで行ったらどうしようなんて考えていたのに、近づいた俺の腕をマックスが急に掴んでベッドへ転がす。
急に視点が変わったと思ったら、マックスの顔がすぐそこにあって、驚く間もなく口づけられる。


差し入れられた舌は暖かく、心地良かった。
舌だけじゃない。
廻された腕も、吐息も、マックスの全部が暖かかった。
舌を絡めているうちに、不安と恐怖で冷たく固まっていた体がゆっくりと解れていく。
マックスの体温が俺にも移ってくる。


夢中でキスをしていると途中でお腹に硬いモノが当たるようになる。
これって、もしかしなくても…。
ちらりと見るとそれはやっぱり予想通りのモノで。
俺が気づいたことに気づいたマックスが俺の耳元に顔を寄せる。


「もう、我慢できないよ。
……いい?」

そう、俺の耳元で恥ずかしそうに囁いた。


マックスが俺に欲情しているって事実は、想像以上に嬉しくて。
あんなに怖くて堪らなかったのに、マックスの言葉を聞いた瞬間に覚悟が決まってしまう。


「マックスになら、いいよ」

マックスと同じように俺も耳元で囁いた。

ああ、俺は本当にマックスのことが好きで。
マックスが与えてくれる物なら何でも受け入れられる。
俺の首筋にキスをするマックスの背中に手を回した。



 

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