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火に掛けっ放しだった鍋はすっかり焦げ付いてしまって、食べ慣れているはずのカレーは食べたことのない味をしていた。
それでも、マックスと二人で食べるのが嬉しくて、その日食べたカレーは今まで食べた中で一番幸せな味がした。


食事が済んでお風呂の準備をしていると、マックスが後ろから抱き着いてきた。


「ねえ、もちろん一緒に入るよね?」

そう言って俺の腰に手を回し、後ろから覗き込んでくる。
うう、すごい近い。
あまりの密着度に俺は顔が熱くなる。


「もう!
準備できないから冗談は止めて」

腰に巻きついているマックスの手を押しのけながら言う。
こんなに近くちゃ平常心でいられない。
少し離れてもらわないと俺が保たない。


「冗談なんかじゃないって。
一緒に入るって言わないと離さないから」

「えっ、冗談じゃなかったの!?」

マックスの言葉に吃驚して、いつもより大きな声が出る。
珍しい俺の大声に、マックスも吃驚して離さないと言っていた手をあっさり離す。


「冗談だと思ってたの?
本気も本気。めっちゃマジだよ?」

だから一緒に入ろって言いながらもう一度抱きつこうとするマックスから、慌てて飛び退く。


「無理、無理、無理、無理。
絶対無理!心の準備ができてない」

首も手も振って拒否る俺を見て、マックスも分かってくれたみたいで残念そうに言う。

「仁がそう言うなら今日は諦めるけど。
明日は絶対一緒に入るから、ちゃんと心の準備しといてよ」

あ、明日!?
明日だって急すぎる。
俺は返事もしないで大慌てでお風呂の準備を進める。


「仁!?」

返事をしない俺にマックスが返事を迫る様に名前を呼ぶ。


「俺、皿洗いがあるからマックス先入っちゃって。
ある物適当に使っていいから」

必要なことだけ言ってキッチンへ逃げ込もうとする俺の手を、逃がすまいとマックスがしっかり掴む。


「仁!?」

「…明日、ね」

俺が恥ずかしくて死にそうになりながら何とかそう言うと、にっと笑ってからやっと手を離してくれた。



キッチンで皿と焦げ付いた鍋を洗いながら、先程のマックスの言葉を思い出す。

『冗談だと思ってたの?
本気も本気。
めっちゃマジだよ?』

確かにお風呂一緒に入ろうって言葉は本気だったみたいだった。
じゃあ、じゃあもしかして今までの他の冗談だと思っていたマックスの言葉も全部本気だったって事は…。
ふ、と気づいて今までのマックスのからかいの言葉を思い返す。


『他の奴に瞳見せちゃ駄目だよ。ライバルは増やしたくないからさ』
『仁てさー、エロっちいよね。肌とか白くて』
『もう浮島さんと二人っきりで会っちゃ駄目だよ。アイツに何かされるかも知れないだろ?』


…うわー、どうしよう。
顔がめちゃくちゃ熱い。
皿洗いで冷たくなった手で顔をピチピチ叩く。
どうしよう、アレが全部冗談なんかじゃなく本気だとしたら…。
俺が真っ赤になるのが面白くって言ってただけじゃなかったら…。
俺、俺、もしかして…。

……大切にされてる?


居たたまれなくなって焦げた鍋をゴシゴシ擦る。
なんだこの考え、自分に都合良すぎないか?
でも俺の頭の中には今まで何も無かったのはもしかしたら友達だからじゃなくて、大切にされてたからかも知れないっていう新しい考えが離れない。
直接刻み込まれたみたいに勝手に期待している。
どうしよう、もしそうなら嬉しくて死んじゃう。
そう思って身もだえながら鍋を磨きまくる。


「焦げ、落ちる?」

「うわっ」

夢中になっててマックスがいつの間にか来ていたのに全然気づかなかった。
すぐ背後から聞こえたマックスの声に俺は思わず鍋を落とす。


「なんだ、もう落ちてるじゃん」

マックスが鍋を覗き込む。
ガツンと鈍い音をしてシンクに落ちた鍋はもうピカピカだった。

「仁も早くお風呂入りなよ。
早く出てきてよ?
あんまり遅いとお風呂場まで襲いに行くからね」

鍋を拾い上げながら交代とばかりに笑うマックスを直視できなくて、俺は何も言わずに風呂場までそそくさと逃げ込んだ。


 

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