初めてのお泊り 影野ver



これは、最後の賭け。
これ以上浅ましい期待をしない為の。


彼はいつだって一番近くで笑ってくれる。
俺はそれだけで満足だったのに、
彼が『好き』なんて冗談でも言うから
俺はどうしたって期待してしまう。
…俺たちは友達じゃなく恋人同士なんだって。


だからこれは最後の賭け。
友達か恋人かはっきりさせる為の。

俺は小さく深呼吸して賽を振る。


「ねえ、マックス。
明日から、母さん出張でいないんだ」



「だから…と、泊まりに来ない?」



あの日…俺の心の一番脆い部分を自分以外の人に初めて見せたあの日から、
まるで雛が初めて見たものを親だと思うように、俺の心も彼を求めて止まないようになってしまった。

どんな俺も嫌いにならないと言って笑う彼は眩しくて、あの日射し込んだ夕日のように俺の心を明るく照らした。
俺をゲイじゃないって断言した彼に、その数分後には恋をするなんて俺も大概馬鹿だと思う。


実ることのない恋だということは落ちた瞬間に分かっていた。
結ばれることは無くても。
例え彼に可愛い彼女ができたとしても。
友達としてずっと傍にいたい。
そう、思っていた。


だけど。
だけど彼が雨の中やって来て、俺のことを好きって言ってくれたから、
俺は彼の言う好きが友達としての『好き』じゃなく、特別な『好き』なんだって、てっきりそう思ってしまった。
彼の特別になれたんだって。


でも彼の態度は友達のソレでしかなくて。
確かにあの日彼の特別になれたような気がしたのに、日が経つにつれだんだんその感覚は俺の中から薄れていった。

逆にあの日彼が言った謝りたいって言葉がどんどん大きくなってきて、彼はただ仲直りがしたかっただけなんじゃないかって思えてきた。
彼の以前と変わらない態度はソレが正解だって言ってるみたいで、俺の一瞬の感覚なんてあまりにも儚くて、不安だけが大きくなっていく。


ただその一瞬の感覚はあまりにも甘美で、知ってしまったら知らなかった振りはもうできない。
今まで充分美味だと感じていたものを、一気に物足りないものへと変えてしまう。
友達として傍にいられれば良かったのに、今では彼の特別な存在でありたいって思ってしまっている。


もしこのまま友達として傍にいて、彼が自分以外に特別な存在を見つけてしまったら、
俺はきっと気が狂ってしまうかもしれない。
他に特別な存在のいる彼を、
他の誰かと愛を交わしている彼を、
近くで見ているなんてとてもできそうにない。
祝福なんて絶対出来ない。



だから俺は最後の賭けに出る。


泊まりに来てと俺が言えば、友達でも恋人でも泊まりには来てくれるはず。
だけど、恋人だったら二人きりの夜に何もないなんて無いと思う。

何かしら、そう、どんな些細なことでもいいから、あの時みたいに俺が特別なんだってもう一度感じることができたなら。
俺はこれからも彼の傍にいることができる。


でも、そうじゃなかったら……。


俺は彼の前から消える覚悟をしていた。



 

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