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すっかり暗くなった仁の家の庭先でボクは蛍みたいに煌々と灯りの点いた外灯を頼りにインターフォンを押す。


「仁〜、ボク〜。
開けて〜」

中にいる仁によく分かるように、わざとインターフォンに顔を近づけて言う。
早く、早く、開けてー。

中からドタドタッていう音が聞こえたかと思うと、すぐさまガンッと玄関が勢いよく開けられる。
その勢いにボクはぎょっとしてしまう。
は、早くとは思ったけどここまでとは…。
しかも…。


「マックス!!」

仁がボクにいきなり抱きついてきた。


何、何、何この状況??
ここまで熱烈歓迎を受けるとは思ってなかったぞ。
ボクの身体には頭を抱きかかえるようにして仁が巻きついていて離れない。
ボクは戸惑いながらもその優しく背中を撫でながら言った。


「どうしたの?
とりあえず、中入ろ?」

ボクがそう言うと仁はボクの頭を抱えたままコクコクと頷いたのがわかった。
やっとボクの頭を離した仁は何故か泣いていて、ボクをさらに混乱させる。
でもいつまでも外で揉める訳にもいかないし、噂になっても困る。
ボクは泣いている仁の手を引いて家に入る。
よく見ると仁は裸足で。
流石のボクでもこんなの何があったのか不安になる。


家に入っても、二人でソファに座ってもボクの手を掴んだままいつまでも仁は泣いていた。
ボクは仁の肩を抱き寄せ、落ち着かせる為に優しく撫でる。


「何があったの?」

うわ、ボクってこんな優しい声が出せたんだ。
自分でもびっくりするぐらい普段の声の調子と違う声が出てくるんだから凄いよなー。
あー、ボクってば仁の事大好きすぎるデショ。


「マックスが…、マックスが…」

「ボクが?」

「もう、来ないかと思って…
俺、俺、き、嫌われたと思って…!」

……はあ?

「なんでそーなるの!?」

う、またも自分でもびっくりな声が出ちゃったじゃないか。
自分でもびっくりする程すっとんきょうな声。


「だって、
だって昨日だって結局何にもしなかったじゃないか!」

仁が泣きながら怒り出す。
えー、なんでこんなに怒ってるの?

「それに昨日リビングで寝たでしょ?
俺の隣じゃ嫌だったんでしょ!?」

ボクは普段大きな声を出さない仁の剣幕にタジタジになってしまう。


「やっぱり俺じゃ駄目だったんだ!
女の子じゃないし、格好いいわけじゃないし。
いざとなったらやっぱり無理だって気づいたんでしょ!?」

どんどんと自己否定へと陥ってく仁の言葉に慌ててボクは口を開いた。
このまま放っておくと誤解のままどこまでも勝手に落ち込んでっちゃうに違いない。


「そ、そんなこと無いって!!」

「じゃあ、飽きたんだ。
昨日キスはしたから男と付き合うことに満足したんでしょ!?」

う、否定したのにボクを上回るスピードで更に否定された。


「すぐ飽きるマックスがいつ俺に飽きる時がくるかいっつも心配だった」

「そんなこと思ってたの!?」

ここまで来るとボクはもう唖然としか出来ない。


「だっていつだってそうだったじゃないか。
カメラに嵌ったときも部活中、練習記録になるからいいでしょとか言って撮りまくってたのに、実際ファイヤートルネードがブレないで綺麗に撮れた途端カメラを持って来なくなったじゃないか。
それに、バスケに嵌ったときは三点シュートを百発百中にするとか言って毎日100本もシュート打ってたのに、ボクもイナズマ落としが打てるようになりたいとか言って壁山を騙して二段ジャンプでダンク決めた途端バスケットボールを触りもしなくなったじゃないか。
それから、ボクシングに嵌ったときはボクもデンプシーロールが出したいとか言って鉄棒でダッキングの練習してたのに、偶々通りかかった円堂が新しいドリブル技の練習かって言い出したらボクシング忘れていつの間にかドリブル練習になってたじゃないか。
それから…!」

後から後から出てくるボクの悪行にボクは頭を抱える。
…ボクって本当に飽きっぽいよね。
…うん、分かってはいたけど。
でも今重要なのは仁がどれだけボクの飽きっぽさについて詳しいかじゃない。
重要なのは今、仁が不安に思ってる事は全部誤解だって事。
なかなか止まらない仁の言葉を止める為ボクは仁の口を塞ぐ。
…自分の口で。


唇を離すと、仁は今キスしたばかりの口元を押さえてやっと静かになった。


「ボクが仁に飽きるなんてこと、ある訳無い。
こんなに、こんなに好きなのに!」

やっと伝えられたボクの想い。
次は態度で示す。
仁が不安がる事なんか全然ないって事をボクは仁に分からせないといけない。
ボクは覚えたての深いキスを仁と交わす。
いつの間にか仁の腕がボクの背中に回っていた。


「本当に?…信じていいの?」

仁の言葉はまだ不安そうに揺れている。


「証拠、もっといる?」

ボクはそう言うと疑り深い恋人をゆっくりとソファに押し倒した。
キスより愛の証拠になる行為なんてボクはこれしか知らないからね。



その日ボクはやっと仁と一つになった。
今日一日中シュミレーションしてたどのシチュとも全然違ってたけどね。



 

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