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「仁、仁。
起きて、朝だよ」
次の日の朝、少し早めに起きたボクはまだ寝ていた仁を起こす。
「ん。おはよ」
ムクリと起き上がり眠そうに隠れた目を擦る仁が可愛かった。
「ねえ、朝ごはんどうする?」
朝ごはんでも食べる予定だったカレーは昨日の夜焦がしてしまって、もうない。
「なんにも無いな」
「じゃあさ、またコンビニでなんか買って屋上で食べよっか」
「また、サボるの?
マックスこの前また呼び出されたばかりでしょ」
…そうだった。
仁の咎めるような言葉にボクはうきうきした気持ちが萎んでいく。
仁と付き合いだしてよくサボって屋上でいちゃいちゃしてるから、この前また菅田から呼び出しをくらったばっかりだった。
だって授業中なら絶対に人来ないから安心していちゃいちゃできるんだもん。
そりゃ、サボるしかないでしょ。
「いいなー、仁は。
仁だってボクと同じだけサボってるのに全然バレてないんだもん」
「俺のせいじゃないし…」
仁の気配を消せるという特技のせいで教師が気づいてないらしい。
目立つの大好きなボクには到底真似出来ないサボリ技だ。
「あ〜ぁ、じゃあ朝錬終わったらソッコーで食べよ。
それでいいでしょ?」
ボクが妥協案を出すと仁は漸く頷く。
本当は屋上でチュウしたかったんだけどな。
まあ、残念だけどしょうがない。
今日は夜の決戦に備えなければならないしね。
「そうそう!
仁、今日は先に帰ってて」
「えっ、…なんで?」
ボクがそう言うと仁が驚いたように聞き返してくる。
でも、流石に今夜に備えて色々準備したいなんて格好悪くて言えやしない。
「ちょっと用事があるからさ」
「…昨日は何にも言ってなかったのに?」
ボクの濁しまくった言葉に仁が怪訝そうに訊ねてくる。
そりゃそうだ、昨日までは男同士のHがあんなに大変だって知らなかったんだから。
だからあんな後悔をする羽目になったんだ。
でも、今日は違う!
昨夜の汚名を返上してみせる。
ボクは思いっきり格好つけて言う。
「昨日までとは違うからね」
「そう…」
仁も昨日とは一味違うボクの魅力に気づいたのか、それ以上は何も言ってこなかった。
「じゃ、コンビニも寄らなきゃだし、着替えすんだら早めに行こっか」
ボクは張り切って仁に笑いかける。
そう、ボクははっきり言って朝から燃えていた。
動機はめちゃくちゃ不純だけどね!
その日は一日脳内シュミレーションとコンセントレーションを高めることに費やした。
ぶっちゃけると、授業も聞かずエロいことばっか考えていた。
何度も股間を膨らましそうになっては、もじゃマッチョを思い出すを繰り返し無駄な精神力を消耗してた。
部活は流石に真面目にやった。
真剣にやらないと危ないし、レギュラー落ちも絶対嫌だからね。
でも今日は、いつもより時間が進むのが遅い気がしたのは確かだ。
円堂がやっと終わりを告げると、ボクはそそくさと帰り支度を始める。
「あ〜、松野さん片付けぐらいしてってくださいよ〜」
目ざとくボクがソッコー帰ろうとしてるのを見つけて宍戸が言う。
「ごめーん、今日は先帰るねー」
空気の読めない宍戸を軽やかに無視して皆に声をかける。
ボクは着替えもせずに荷物を持つと自宅へと急いだ。
「爪切り出しといて」
家に帰るとただいまも言わずに母親に頼む。
友達の家に泊まると言っていたボクが帰ってきたからビックリしてなんか騒いでいるけど、そんなのには構っていられない。
ボクは自分の部屋へ行き、急いで私服に着替える。
流石にボクでも雷門ジャージや制服でゴム買うのはちょっと人の目が気になるからね。
着替えると、次は爪切りだ。
大事な仁の体に傷付けない為にはこれもやっとかないと。
綺麗に切りそろえられた爪を見てボクはフっと笑う。
よっしゃ、完璧!
「いってきまーす」
慌しく家を出て、自転車でドラッグストアへ急ぐ。
家から一番近いドラッグストアは知り合いのおばさんがパートしてるから、面倒を避けるため二番目に近いところへ向かう。
くっ、過去の悪戯のせいで無駄に近所に顔が知れてるのが辛いぜ。
全速力で自転車を漕いで急いでドラッグストアに着くと、早歩きでゴムとローションを探す。
ゴムはあったけど流石にローションは無く、代わりになりそうな物を探して結局ハンドクリームを適当にかごに入れる。
たったこれだけなのに、全部買ったら中学生のボクには結構な出費で財布が随分軽くなった。
雷雷軒や欲しかった新しい帽子が遠くなる。
でも、その分今一番欲しいものが近づいたってことだからボクは意気揚々と家へ急ぐ。
家に戻ってもう一度予備のジャージに着替える。
家族は呆れてるけど、今日も仁の家に泊まるから余計な荷物は持っていきたくないしね。
部活とさっきの全速力とで汗だくの体に新しい服を着るのは嫌だったけど、それ以上に時間が惜しかった。
うちでシャワー浴びる時間なんてない。
そもそもこれから仁と一緒にHの前に浴びるかもしれないし。
時計を見るともう七時を回ってる。
仁が待ってるし、急がないと。
少しでも長く二人の夜を楽しみたいしね!
「いってきまーす」
もう一度家をでるボクに家族は呆れてもう挨拶を返してもこなかった。
全く誰に似たんだか失礼な家族だ。
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