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「そっか、ネットで調べれば良かったのか」


もし言い訳するなら。
今まではむしろ我慢してたから、できるだけそのテのことは触れないようにしてたし。
昨日は昨日で浮かれるばっかだったし。
ボクは本当にソノ時になるまで全く何も考えてなかったし、何も準備してこなかった。
普通に考えればゴムぐらい用意するってわかるもんだよね。


仁が適当に選んだサイトは基本的なことばっか載ってるところだったけど(だって初心者とか初めてとか基本知識とかの言葉がすぐ出てくる)ボクには知らないことばっかだった。
ふんふんとかへーとか軽い相槌を打ちながら色々な知識を詰め込む。
途中で一つ気になることがあったのでボクはPCのモニターを指差した。


「ねえ、仁はどっちがいい?」

ボクが指差したところには『タチ』と『ネコ』の説明文。

「ボク、こっちがいいな」

迷う事なく『タチ』のほうを指差す。
仁に質問しといて先に答えるのはズルいかな?ってのは確かに思った。
でも自分が『ネコ』のほうになるのは想像できないし、触れられるよりは触れたいって思うから、ここは絶対譲れない。
仁の顔を後ろから覗き込むと苦笑を浮かべてる。


「いいよ、それで。
そう言うと思ってたし」

なんでもないことのように言う仁にボクはやっと気づく。
そっか、仁はこういうこともちゃんと考えていたのか。
仁は自分が負担の大きいほうになるかもって思ってて、それなのにOKしてくれてたのか。
浮かれてただけの自分が恥ずかしい。
愛しさと反省の気持ちをこめて、ボクは抱きしめる腕にちょっとだけ力をこめた。


とりあえず基本的なことは知識としてはなんとか詰め込んで、ほうっとため息をつく。

「どう?」

「んー、結構めんどくさいね」

正直な感想を言うと仁は苦笑いを浮かべた。


「それは、そうでしょ。
そういう風に出来てないんだし、仕方ないよ」

「ねえ、こっちの動画も見てみようよ」


知識だけで流れとかいまいちわからないボクは実際のお手本が見たくてリンクページを指差した。


「まだ、見るの?」

「じゃあ、これが最後」

うんざり声の仁にボクがそういうと、仁は仕方なさそうに動画をスタートさせた。


動画が始まってすぐボクは後悔した。
もじゃもじゃとマッチョが…うう、思い出したくも無い。


「もういい、もういいや!」

ボクは慌ててストップをかける。
肩を抱いてた手も離して画面を見ないようにしゃがみ込む。
仁が動画を止め、ボクに振り返った。


「大丈夫?」

「大丈夫じゃないかも」

心配そうな仁の声に、うえっと顔をしかめてみせる。


「じゃあ、どうする?」

「どうって?」

「続き、…する?」

恥ずかしそうな仁の声にボクはハッとした。
そうだった!
何の為に動画を見たんだ。
仁と本懐を遂げる為じゃないか!
もじゃマッチョの衝撃ですっかり萎えMAXになってたから、素で忘れていた。
どこを探してもボクの中にイヤラシイ気持ちが残ってない。
即答しなかったボクに仁が訊ねる。


「もう遅いし、今日は止めとく?」

仁の部屋の時計を見あげるともう十一時近かった。
今から先ほど詰め込んだ知識を実践したら確実に日付が変わる。
明日も当たり前のように部活があるし、授業もある。
明日も泊まれるし…。


「う、…ん。…そのほうがいい、かな?」

自分で誘っておいて断るのが、なんか気まずい。
ボクは正直、そう言うのも仁が気を悪くしないか恐る恐るだった。


「じゃあ、もう寝よっか」

でも仁は気にしてないように見えた。
普通の調子でそう言うと仁は椅子から立ち上がった。
ボクは半分ホッとして、でも半分がっかりして仁に頷いた。


ベッドで仁と手を握り、向かい合って横になる。


「おやすみ」
ってボクが言うと
「おやすみ」
って仁が言う。


こんなに二人の距離が近いっていうのに仁は呆気ない程すんなりと眠りについた。
ボクは寝てしまった仁の前髪をそっと除ける。
普段は見えない、見せることの無い目元が露わになる。

ああ、やっぱり好きだなぁ。

すっきりした目鼻立ちも、今は見えないけど晴れた夜空の色した瞳も、白く細いその手足も、仁のすべてがボクをドキドキさせる。


どうして「しない」なんて言ったんだろう。
どうして仁の隣で何もしないで寝れるなんて思ったんだろう。


そんなこと絶対無理なのに。


ボクは仁を起こさないように繋いでいた手をそっと離す。
そして、リビングのソファで寝るため仁の部屋をそっと後にした。


リビングでソファに横になって仁のことを想う。
はあ、なんでこんなとこで寝てるんだろ。
本当だったら思いを遂げて、仁の横で寝てたはずなのに。
昨日の間抜けな自分に腹が立つ。


決めた!
明日は絶対やってやる!!
色々必要なものも用意する!!
男を見せる!!

ボクはリビングの隅にある観葉植物に熱く誓うのだった。



 

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