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仁のお母さんが作っておいてくれたカレーは見事に焦げていて、そのほとんどを駄目にしてしまった。
ボク達は無事だった少しの部分を掬って二人で分けて食べた。
それは焦げた味がして決して美味しいものではなかった。
それでもこれもファーストキスの思い出になると思うと食べながらも口の端が上がるのを抑え切れない。
仁がカレーを食べるのを見た時もボクはニヤニヤしてしまった。
だって、あのスプーンを咥えてる口とさっきボクは…。
「へへへ」
ボクはついに堪えきれずに声を出して笑ってしまう。
「ねえ、後でもう一回しようね!」
「う、うん」
仁も顔を赤くして頷く。
「一回だけじゃなくいっぱいしていい?」
「う、うん」
「あんな気持ちいいもんなら、もっと早くすれば良かったね!」
「……」
「仁の唇、ぷにゅってしてた。ぷにゅって。
ベロも、うにゅってしてて、暖かくって、もぉ〜辛抱堪らんって感じ?
それでさー…」
「マックス!!」
どこまでも続きそうなボクの言葉を、耐えられないといった感じで顔を手で覆いながら仁が遮る。
顔は隠していても髪から出てる耳が真っ赤になってて可愛い。
ボクは誤魔化すようにへへっと笑う。
そうだよね、思い出に浸るよりも早く食べて続きしたほうがいいしね。
ボクは急いでカレーを食べるのを再開した。
お風呂は結局仁が嫌がるので一人ずつ入った。
まあこれからの準備もあるしね。
そこはボクが折れる事にした。
まあ大人だしね。
大切な事なんで何回も言うけど、今から大人になるからね。
体中を丹念に洗い、歯もしっかり磨いた。
お風呂から上がり、お皿洗いをしていた仁とバトンタッチすると、ボクは急にそわそわしてしまう。
いてもたってもいられなくなって、リビングから仁の部屋へ行く。
仁の部屋はリビングより少し寒くて、ここで服を脱いだら少し寒いかな?なんて一人で思っては照れていた。
仁がお風呂から上がって部屋に来たとき、ボクはベッドの上でさっきのチュウを思い出して身悶えていたところだった。
……今日のボクは正直格好悪い。
気を取り直してボクは精一杯格好つけて仁の名前を呼ぶ。
「仁」
「う、うん」
仁がゆっくりとベッドに近づいてくる。
ベッドの傍まで来た仁の、腕を掴んでベッドに転がす。
「あ…っ」
小さく声を上げた仁の口に覆いかぶさるようにしてキスをする。
ボクは横になってると身長差を気にしなくていいから良かったなあなんて思いながら舌を絡める。
ぴちゃぴちゃという微かな水音と自分の体のすぐ下にある仁の体温とで、ボクの体は嫌が応でも反応を始める。
体を密着させてるから、そんなボクの反応は仁にすぐにバレてしまう。
仁はボクの下半身をちらっと見ると耳も鼻も、顔全部を赤くした。
「もう、我慢できないよ。
……いい?」
流石のボクも仁の顔をまっすぐ見れなくて耳元で訊ねる。
息が荒くなってるから恥ずかしい。
すると仁はボクの首に腕を回して、やっぱり耳元で囁いた。
「マックスになら、いいよ」
耳にかかる息が気持ちよくて。
仁の言葉が嬉しくて。
ボクは夢中で仁の白い首筋にキスをした。
首筋にキスをして、もう一度深い深いキスをして。
キスをしている間に仁のパジャマのボタンをはずす。
どんどん露わになっていく仁の白い肌に興奮して胸元にキスをする。
でもボタンを全部外してしまうとボクの頭は真っ白になってしまう。
これからどうしよう・・・?
下も脱がす?
いきなりすぎる?
大体AVだと、上を脱がしたらおっぱい揉んでた。
男でもおっぱいって気持ちいいのかな?
でも揉めないよね?
舐める?
って、そもそも男同士ってどうするの??
いきなり止まってしまったボクに仁が声をかける。
「マックス・・?」
「仁〜、これからどうすればいいの?」
…やっぱり今日のボクは格好悪い。
「マックスのしたいようにして」
ホッペにチュっとしながら仁が恥ずかしそうに言う。
仁が一生懸命甘い雰囲気にしようとしてるのも分かるけど、どうしたらいいか分からないものはしょうがない。
「だって何をしたらいいかわかんないんだもん。
そもそもゴールはどこなの?
どこを目指していいかもわからないのに続けらんないよ〜」
情けないボクの言葉に仁も体を起こす。
「何も知らないで始めたの?」
仁の少し非難の篭った言葉にボクはむしろ光明を見出す。
「仁は知ってるの?じゃあ、教えてよ!」
「それを今、俺に聞く?」
呆れたような仁の声。
「じゃあ、いつ誰に聞くの?」
開き直ったボクの声。
うっと、詰まる仁に畳み掛けるように言う。
「だからさ、仁がどんどんボクに指示出してよ。
次アレやってとかさ。
どこそこ舐めてーとか」
良いアイディアだと思ったんだけど、仁はボクの言葉に頭を抱えてしまった。
「それ…無理。
恥ずかしくって死ぬ」
「じゃあ、今説明して。
分かったらその分一生懸命頑張るから」
ボクがそう言うと仁は大きなため息をついてついにベッドから降りてしまう。
呆れて怒っちゃったかなと思ってボクは内心冷や汗ものだけど、そんなボクに気づかない様子で仁は机に向かってノートPCを広げる。
そして振り向きボクに声を掛ける。
「こっち来て」
ボクが仁の背後から抱きつくように覗き込むと、そこにはボクの知りたかった世界が広がっていた。
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