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次の日ボクは一日中上機嫌で周りからウザがられた。
クラスでは掃除当番をサボらずやって女子から雪が降ると心配され、
部活では一年の代わりにボール出しをやって宍戸から熱でもあるのかと心配された。
でも、ボクはそんな失礼な人々には一切怒らなかった。
大人だからね。
というか、今日大人になるからね。
部活が終わって、お泊り道具のせいでいつもよりパンパンなバッグを抱えて仁と歩いて帰る。
重たいけど、これが幸せの重さってやつだ。
ここは手を握りたいところだけど、人目があるからそこはぐっと我慢。
これぐらい我慢するのは簡単な事だ。
なんたって大人だからね。
しつこい様だけど、大人になるからね。
いつもは別れる交差点で今日は一緒の方向へ帰る。
それだけでなんだかくすぐったくって堪らない。
「ご飯すぐ食べる?
それとも先にお風呂のほうがいい?」
家に着いて開口一番に仁が聞いてくる。
きたあああ、新婚さんの定番セリフ!!
こういうのを狙わず素で言っちゃうのが仁の可愛いところなんだよなあ。
ボクはニヤニヤしてしまう。
「『それとも私?』は言わないの?」
すると案の定気づいてなかった仁は顔を真っ赤にする。
「そっ!
……そんなこと言うわけないだろ」
声がどんどん小さくなっていく。
可愛いなぁ…、ボクの恋人は。
「なーんだ残念。
じゃあ、仁は後に取っておくとして、先にご飯かな。
後にお風呂のほうが都合いいし」
「都合いいって…」
仁の顔がさらに赤くなる。
「もちろん一緒に入るよね?」
「…マックスの馬鹿」
そう言うと仁はボクを置いて先にリビングへ行ってしまう。
あちゃ〜、怒っちゃったかな?
すぐ赤くなる仁が可愛くて、からかい過ぎちゃうのは付き合い出してからのボクの新しい悪い癖だった。
リビングに入ると仁の姿はなく奥のキッチンにいた。
ボクはソファの脇に荷物を置くと仁の背後に回る。
ボクに気づくと仁はボクの方を見ずにコンロのスイッチを入れた。
「温めるだけだからマックスは向こうで待ってて」
う〜ん、これは怒ってはいないけどちょっと拗ねてる?
ボクは機嫌を取るように仁の服を引っ張る。
「ねえ、さっきはごめんね。
新婚さんみたいで嬉しくなっちゃってさ。
こういうの今まで無かったもんね」
「…マックス」
そう言うとやっとボクの方を向いてくれた。
二人の間が優しい空気になる。
良かった、折角二人きりなのに喧嘩したくないし。
今日はずっといちゃいちゃする日って決めてきたしね。
「ねえねえ!
キス、していい?」
「えっ」
ボクがそう聞くと仁は途端に口ごもってしまう。
急だったかなとドキドキしながらボクは仁の返事を待つ。
「…いいよ」
じりじりするぐらい長い沈黙の後、仁は小さくそう言った。
コクンと小さく頷く仁はなんだか色っぽくて、空気まで濃くなった気がした。
ボクは空気を求めて浅く何度も息をする。
自分から言ったくせにキスなんて初めてでどうしていいか分からない。
戸惑いながら仁の顔へと自分の顔を近づける。
……でも届かない。
「……〜〜〜ッ、ちょっとしゃがんで」
早くキスしたいのに背の低い自分が恨めしい。
格好悪いなあと思いながら焦れたように言うと、すぐさま仁が床に膝を着く。
身を屈めるんじゃなくてボクより姿勢が低くなるように自然としてくれる仁にボクはちょっと感動してしまった。
そして膝を着きボクを見上げ、微かに吐息をもらした仁にボクの心は完璧にショートした。
あんなに戸惑っていたのが嘘みたいにもう仁の唇しか目に入らない。
ボクは夢中で仁の唇に奪うようなキスをした。
軽く触れた仁の薄い唇は、しっとりしててぷにゅっとして一瞬のキスでもボクを虜にした。
唇が離れるときに仁がもう一度吐息をもらすから、ボクは堪らなくなってもう一度唇を押し付ける。
微かに開いた仁の唇に捻り込むように舌を入れると、驚いたようにボクの服を仁がきゅっと掴む。
それから仁がおずおずと舌を絡めてくるから、ボクは夢中で仁の唇を貪った。
それからボク達はコンロに掛かった鍋から焦げた嫌な臭いがしてくるまで、夢中でキスを交わした。
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