初めてのお泊り マックスver
「えっ、本当にいいの?」
ボクは思わず聞き返す。
だって、だって…。
「うん、明日から母さんが二日間出張でいないんだ。だから…」
「泊まりにこない?」
ボクたちはあの日紆余曲折の末に、なんと両想いになれた。
ボクは正直浮かれた。
雨の中二人で手をとってくるくる回りたいくらいに浮かれた。
まあ、本当にはやらないけど。
ぶっちゃけ、そのままの勢いで仁の家に戻ったら色々するつもりだった。
でも、甘かった。
仁の家に戻ると浮島さんがまだいて、手を握り合って帰ってきたボクたちを見てニヤニヤしながら(ボクにはそう見えた)事の成り行きを聞いてきた。
実のところボクは浮島さんが仁んの家に居る時点で結構頭にキてた。
でも仁がボクのことを頬を染めて嬉々として浮島さんに報告しだしたから、まあ許してやった。
それなのにあのオッサンは着替えやら何やらで仁が居なくなった途端態度を急変させやがった。
ニコヤカで穏やかな雰囲気はどこかへいき、重苦しい雰囲気でボクに話しかけてきた。
「影野君の話からすると、君は随分素直な子みたいだね」
す、素直!?
仁はこのオッサンに何を言ったんだか。
ボクは素直なんて言われたのは生まれて初めてだった。
「だから忘れないで。
あの子を一番幸せにできるのも、一番傷つけることができるのも君だってこと」
真剣な話しぶりにこの人が仁のことをすごい大切に思っているのが伝わってきた。
それは少し嫌なことだったけど、ボクはまっすぐ見つめて大きく頷いた。
仁を幸せにした気持ちで、このオッサンに負ける訳にはいかなかった。
浮島さんにスッカリ勢いをそがれてしまったボクはその日結局何もせずに帰った。
次の日も、また次の日もボクは何もしなかった。
できなかった。
浮島さんの言葉で両想いだからって何をしてもいいって訳じゃないことに気づいたから。
はっきり言ってボクにしてはそれまでにもだいぶ我慢してたから浮かれて突っ走って色々したかったけど、仁の気持ちを無視するようなことはしちゃいけないって気づいた。
もう二度と仁を泣かせない。
仁が怖がる事は絶対しない。
それはあのオッサンよりもボクの方が仁を大事に思ってるって証拠みたいなものだ。
だからボクたちは両想いになれてからも、ボクが仁を避ける前に戻ったみたいな関係を保った。
二人で馬鹿なことをして、二人で笑って、二人きりのときだけそっと手を握る。
そんな付き合い方をずっと続けていた。
だから、仁のお泊り発言はすっごい嬉しかった。
だって、だってそーいうことでしょ!?
仁の方からOKサインが出たってことでしょ!?
もう我慢しなくていいってことでしょ!?
ボクは正直浮かれた。
お姫様だっこでくるくる回りたいくらい浮かれた。
まあ、本当にはやらないけど。
ボクは二つ返事で即行OKした。
仁も照れた様に笑ってくれた。
さすがに今日から泊まるというボクの提案は却下されたけど。
▼