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最近のボクはちょっとおかしい。
初めてあの夢を見た日から、あの夢を見た次の日は仁をボクの我侭で振り回したくてたまらなくなる。
最初はマックスって呼んで欲しくて。
そしたら仁が呼んでくれて。
それがただただ嬉しかっただけなのに。
今では仁がボクにどこまで甘いか試したくて堪らない。
普段は嫌われるのが怖いしちゃんと自制できるのに、あの夢を見ると黒いモヤモヤとした闇が胸に広がってボクの自制を覆い隠してしまう。
その闇を払う為にはボクの我侭を笑って聞いてくれる仁が必要で。
だから今日もボクは我侭を言ってしまう。
黒い闇の晴れたボクは仁のことが心配で授業に戻る気になれない。
仁を探して校内をうろつくと、
髪の毛でちゃんと顔を隠したまま緩く一つにポニーテールにして歩いている仁を見つけた。
髪の毛なんて部活のときにも縛らないのに。
ボクは初めて見る髪形にさっきまでの心配も忘れて駆け寄る。
「仁、どーしたのその髪型。
風丸のまね?」
「風丸じゃないよ」
笑いを含んだ仁の言い方に嫌な予感がする。
ん?って眉を顰めたボクに仁は嬉しそう笑うとポケットから何かを取り出した。
「マックスのまね」
取り出したのはボクのとそっくりのしましまの帽子。
「なんでそんなの持ってるの!?」
「こういうこともあるかと思って」
帽子を被りながら仁が言う。
「これ被って逃げたから」
すごく楽しそうに仁が言う。
げ、じゃあもしかして先生たちはボクのこと探し回ってるかも。
「あ、来たかな?」
仁が帽子を脱ぎながら言う。
仁の視線の先を追うと、向こうの角から菅田の姿が見えた。
松野ー!っていう菅田の怒鳴り声が廊下に響く。
「早く逃げないと捕まっちゃうよ?」
さっきボクが言った台詞を仁がそのままボクに嬉しそうに言う。
ボクが仁に思いっきり舌を出すと、仁はにこやかに手を振った。
結局ボクは菅田に捕まり、
放課後生徒指導室に呼び出された。
今日のことだけじゃなく、帽子のことや最近サボりが多いことまでこってりと説教をくらう。
こんなの酷いトバッチリだ。
その日ボクが部活に顔を出せたのは、ほとんど終わりに近い時間だった。
河川敷のグランドは橋からも土手からも練習がよく見える。
部室から走ってきたボクは、走りながらグランドを眺める。
夕焼けに染まるグランドでFWとMFはシュート練習を、
DFはフォーメーションの練習をしている。
ボールを拾う仁を見て、ボクは思わず走るスピードを緩める。
仁はDFなのにフォーメーション練習に参加していない。
土門が入部してレギュラーから落ちた仁は、練習中でも遠慮してすぐ他の奴のフォローに回る。
すぐ球拾いにまわったり、シュート前のパスを出す係りになったり、笛係になったり。
普段は自分も練習に参加してるから、そこまで気にしてなかった。
でも、こうやって橋の上から見ると…。
ボクは仁を無理やりにでもDFの練習に参加させようとまた走る速度を上げる。
でもすぐボクの足は止まってしまう。
仁が笑ったから。
仁がボールを走って取りにいって、ボールを沢山抱えた目金とぶつかり二人して笑ったから。
散らばった沢山のボールを宍戸と少林が拾うのを手伝いに来たとき、また仁が笑ったから。
なんで、なんで笑うの?
なんで、ボール拾いなんてやってるのに笑うの?
……なんでボク以外の奴に笑うの?
ボクは橋の上で練習を眺めながら、
ぼんやりとまた今晩もあの夢を見るような予感がしていた。
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