第三章1



「一回も二回も変わんないって」

「そういう問題じゃないでしょ」


渋る仁を無理やり連れてきたのは学校の理事長室。
今日はこの前みたいに円堂のじいちゃんのノートを探しに来たんじゃなくて、純粋にふかふか絨毯を満喫しに来た。
ようするに二人して理事長室にサボりに来たってこと。


「誰か来たらどうするの?」

「大丈夫だって。
今日はサッカー協会の集まりで理事長はいないし。
主のいない部屋に誰も来やしないって」

理事長室の前まで来て未だ渋る仁に自信満々でウィンクしたボクは、理事長室のドアを思い切り開けた。


「ね、誰もいないでしょ」



誰もいない理事長室をきょろきょろしながら物色するボクと、その後を仕方なく付いてくる仁。
まるでアメリカのアニメに出てくる泥棒コンビみたいだ。
そう思うと楽しくてたまらない。


「うわー、本物初めて見た」

理事長室の机の上にはドラマとかでセレブがサインする時とかに使う羽ペンが備えられてあった。

「ペンにインクつけて書くのかぁ。
なーんか、漫画家みたい」

ボクはそこら辺にあった紙にサラサラと絵を描いて、まさにおずおずといった感じでソファーに座っている仁に見せた。

「どう?似てるっしょ」

自分で言うのもなんだけど、ボクが下書きも無しにペンで一発で書いた雷門夏未は結構似てた。


「へぇ、マックスって絵も上手いんだ」

仁が感心した様子で机に近寄ってくる。
そうそうボクってば器用だから何でもそこそこ上手いんだよね。
ボクは鼻高々で似顔絵にさらに落書きしていく。


「私、雷門夏未。
ツンデレ生徒会長。
これは理事長の言葉と思って結構よ。っと」

どう?
もう一度仁にボクの力作を見せると仁は苦笑いを浮かべた。


「ツンデレって。
全然デレが無いでしょ」

うわ、何気にひどい。
ボクは理事長の机の引き出しを荒らしながら応える。

「最近デレてきたじゃん。
たぶんだけど雷門夏未って円堂のことが好きなんじゃないかな?」

「えっ、なんでわかるの?」

「そんなの見てればわかるよ。
円堂のことばっか見てるし、自分からは円堂にしか話しかけないじゃん。
バレバレだよ」

お、あった。
ボクはお目当てのテープを引き出しから取り出す。


「なんで仁が照れてるの?」

ずっと引き出しの中ばっか見てたから気づかなかったけど、仁は髪の毛からピョコっと出てる耳を赤く染めていた。


「う、ううん。
見て分かるんだ」

仁の否定の言葉に、ボクは作業を再開する。
さっき見つけたテープを絵の四隅に貼り付けながら、ボクは仁の質問に答える。

「だいたいだけどねー。
木野さんが円堂のこと好きなのは確かだと思うんだ。
あとは、強いて言えば土門。
木野さんと仲いいけど、音無のことちょいちょい気にしてるんだよねー。
好きって感じじゃないんだけど、なんなんだろ?あれ」

話しながらボクは机の立派な椅子を壁側に移動させる。


「じゃあさ、もしかして…」

椅子に登っていたボクの背後からした仁の声はよく聞き取れなかった。

「ん?何か言った?」

椅子の上に立ち、仁のほうを向くと仁は未だに耳を赤くしたままだった。
他人の恋話でそこまで照れなくてもいいのに。
身近な人間の恋話に慣れてない様子の仁が可笑しかった。


ボクが振り返ってようやく仁はボクが椅子の上に立っていることに気づいたようだった。


「…何やってるの?」

訝しげな声で制止の声をやっと言ってくれた。
ふっふっふー、今頃気づいても遅いよ、仁。


「ボクの作品を皆にも見てもらいたくってー」

歴代の理事長の写真の最後列にボクの傑作『ツンデレ生徒会長、雷門夏未』の絵を貼る。


「怒られるよ」

仁の口調は少し責めてるみたいだった。
ボクはよっと、椅子の上からジャンプで降りて仁に笑いかける。


「だからー、仁君代わりに逃げて?」

え、
と固まる仁を尻目にすたすたとドアに向かう。
そして、ドアを開けスゥと大きく息を吸う。


「誰かが理事長室でイタズラしているぞー」

ガラっと遠くで扉の開く音がする。


「早く逃げないと捕まっちゃうよ?」

ボクがニヤニヤしながら言うと、仁は慌てて走り出す。
ボクの横を通りすぎる時

「マックスのばか」

なんて可愛いことを言うから、ボクは上機嫌で仁に手を振った。





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