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とはいうものの、今はもう約束の時間から10分も経過しちゃってる。
まあ俺も待ち合わせ場所には来ているものの、目印に持ってるって約束してたサッカー雑誌はまだ鞄の中だしな。
もしかしたら俺だって分からないだけかもしれない。
でも多分メールとかの雰囲気から察するに、実際に会うってのにビビッちゃったんじゃないかな?
警戒心強そうだったし。
う〜ん、そうだと思って念には念を入れて、もう大丈夫だと思ってからも更に時間掛けたんだけどな。
俺は諦めきれなくてぐるりと待ち合わせ場所を改めて見渡した。
あー、世の中草食系が流行りだっていうけど、結構カップル多いじゃん。
待ち合わせに選んだ、都内でも有数のターミナル駅の有名待ち合わせスポットにはウザい程待ち合わせらしき人が沢山いる。
って、あれ……?
密集してる一角から少し離れたところに、こっちを伺ってる目つきの悪い男の子が居る。
え、でもあの子中学生かな?
中学生にしては少し身長が低い気がするんだけど。
あー、でもあの子がノリ君だといいなぁ。
浅黒い肌がスポーツ少年っぽくてソソるし、それに泣かせたくなる顔してるんだもん。
身長が低いのは寧ろバッチ来いだし、人違いでもいいから声掛けちゃおーっと。
俺はこーっそりとその浅黒い肌の少年の背後に回る。


「ノリ君?」

ポンと肩を叩いて名前を呼べば、その子はビクッと肩を揺らした。
振り返った顔は驚愕そのもの。
うはあ、かーわいいー!


「ノリ君だよね?」

目印であるサッカー雑誌を鞄から出しながら訊ねると、その少年は傍目で分かるぐらい動揺しだした。
ププッ、これって絶対「ノリ君」だ。
こっそり遠くから見て俺の品定めしてから会うかどうするか決めるつもりが、俺のほうが先に見つけちゃったからどうしようか迷ってるって感じ。
警戒心が強そうってイメージにも合うし、それに何よりぶっきらぼうな雰囲気が想像通り!!
ここまで予想通りの反応されると疑いの余地ないなー。
ちょっと余裕ぶっちゃうな、コレ。


「あ、スミマセン。人違いでした」

ノリ君のあまりの動揺ぶりに俺は思わず助け舟出しちゃった。
あんまり困らせるのも可哀想だしね。
それに最終的にノリ君とエッチ出来れば俺は良い訳だし?
俺があっさりと引き下がるとノリ君はあからさまにホッとした表情に変わった。
でもすぐに複雑な表情を浮かべる。
折角待ち合わせ場所までやって来たのに、これでおしまいなのはちょっと残念なんだろうなー。
やー、本当、ここまで分かりやすいとなんだか心配になってくるな。
こっちとしてはやりやすいけどね。


「なんだか俺、すっぽかされたみたいで。
君が待ち合わせ相手だったらいいなぁって思わず声掛けちゃった。ゴメンネ」

「…あー、別にいいッス」

俺と視線を合わさずにノリ君は小さく首を振った。
なんだか少し照れてるらしく、ぶっきらぼうなちっちゃい声が可愛い。


「君も誰かと待ち合わせ?」

「…はい」

「待ち合わせ時間何時?」

「…○時」

視線も合わせてくれないのになんだかんだで結局は素直に答えてくれるとこがノリ君っぽいなぁ。
そんなに正直に答えたら付け込まれるのになぁ。
客観的に見たら自分がベタなナンパされてるってのも気づいてないんじゃないかな?


「もう過ぎてるじゃない!もしかして君もすっぽかされた?」

「…かも」

うわあ、しかも誘ってくれと言わんばかりのこの返事!
よーし、お兄さん、このチャンスを逃す程間抜けじゃないってとこ見せちゃおうっかなぁ!


「じゃあさ、すっぽかされた同士でどっか行かない?
折角ここまで出てきたのにこのまま帰るのもつまんなくってさ。
ね、奢るから少し付き合ってよ。お願い!」

手を合わせて頭を下げて、ノリ君の反応を伺う。
もうここまできたら後はノリ君の判断次第。
今までのメールでのやり取りと実際に会った俺の印象が、ノリ君にとって良いものかどうかに懸かってる。
そんな悪い印象は無いはずだけど……。


「……はい」

「エッ、いいの!?」

しばらーく経ってからノリ君から返ってきたのはイエス。
随分返事に時間が掛かったからてっきり駄目かと思った。
パッと顔を上げると、腕を組んで横を向いてるノリ君が居た。
浅黒い顔が赤く染まってるのが、やっぱり可愛い。


「やった!じゃあさ、向こうのファーストフードのお店入ろうよ」

俺はノリ君の後ろ側の斜め向こうを指差す。
あっち側には少し路地を入っただけでラブホ街があるっていうのを知ってか知らずか、ノリ君は俺の指差した方を見て、ほんの少し顎を引いた。
OKって事みたい。
おおー、テンション上がってきたああ!
俺はがっつきたいのをぐっと堪えて、店の方へと一歩歩き出す。
ちゃーんとノリ君も付いてきてるのを確認してから、ニッコリと俺よりちょっと遅れて隣を歩くノリ君に笑いかける。


「ね、君の名前なんて言うの?」

「え…っ」

ププッ、すっかり自分がノリ君って事を否定したのを忘れてたみたい。
ノリ君は眉を寄せて少し考えてから、ポツッと零した。


「…倉間」

「へええー、クラマ君かぁ!」

うんうん、って俺が頷くと、クラマ君の頬が照れたようにじわじわと赤く染まってく。
ここまで照れるって事は、もしかしたらクラマっていう名前は本名なのかも。
よーし、ノリ君じゃなくクラマ君ね。
俺は新しく知った名前を心に刻みつけて、店を目指してスクランブル交差点を渡った。
スクランブル交差点は流れに沿わないと目的の方向に行けないぐらいの人の量なのに、もう俺はそれをウザいとは思わなくなっていた。
人って現金だなー。
ま、これだけ可愛い子とヤレるとあっちゃ現金にもなるよなと、俺は内心ひとりごちていた。

へっへっへー、今回は本当に「当たり」だったなー!


 


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