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「あのさ、俺も化粧ってしたことないからあんま期待しないでね。
マジで簡単なものしか出来ないから」

俺は軽く断りを入れてから、例の化粧ポーチを手に取った。
一番上にあるのは化粧品じゃなく見られちゃいけないアレ。
さっき使ったから媚薬が一番上に入れっぱなしになってる。
コレが効き出すまでどれぐらい時間掛かるのかなぁ?説明には個人差がありますって書いてあったけど。
化粧が終わる頃には効き出すといいんだけどなー。
あ、もしかして俺の考えてる事ってバレバレ?
そそ、化粧はぶっちゃけ媚薬が効くまでの時間稼ぎってとこよーん。
神童君がエロエロになるまでは楽しいお化粧ごっこのお時間でーす。
えっとー…、まずは下地だっけか?ネットで調べただけだからイマイチ自信ないなぁ。


「神童君、目ぇ瞑ってー」

素直に目を瞑った神童君の顔にクリームを塗り塗り。
男は出来るだけのっぺりを目指しましょうって女装指南サイトに書いてあったけど、神童君ぐらい元が良ければ深く拘らなくても平気っしょ。
全然ゴツくないしね。
それよか化粧はあくまで時間稼ぎなんだから、少しでも早く神童君が発情するような事した方が断然いいよね?
例えばー、俺の手に触れられる事に慣れる事とか、ね!


「あー…、神童君って肌すべすべだね。
女の子みたいだから化粧も違和感ないねー」

俺は出来るだけ道具を使わずに自分の指で必要以上に肌を撫で回した。
プラス撫でる時には褒めるのを欠かさない。
褒められるのが嫌な人っていないよね?しかも不安な時なら尚更。


「そ、そんな事…」

俺の褒め言葉に神童君が目を閉じたまま、恥じ入るように薄く頬を染める。
今の神童君はモーテルを誤解したって事でまず慌てたばっかでしょ?
それと意図せずラブホに居る緊張もあるだろうし、それに何より初めての女装って事で絶対平静な状態じゃないと思うんだよね。
そういう時の方が人から褒められるのって心に沁みたりしない?
神童君みたいな褒められ慣れてそうな子でも少しは良い気分になってくれるんじゃないかな。
んで、脳が一緒に俺の手も気持ち良いものだってインプットしてくれるのを期待してるって訳!


「次はリップね。
神童君、もう目開けていいよ」

矢鱈滅多らお触りしまくったままアイメイクを終え、神童君に囁く。
ん?今、目を開ける時に小さく吐息はきだしてなかった?
なーんか頬も紅潮してるし、もしかして褒め褒め作戦効果あり?
あ、それかもう媚薬の効果出てきたとか!?
うーん、ここはいっちょ攻め時かぁ!?


「グロス塗るからちょっと顔こっちに向けてて」

俺はちょっと攻め込んで、神童君の顎をクイッと掴んで心持ち上に上げた。
んで顔を必要以上に近づけてチューブになってるグロスを指でとって神童君の唇をなぞった。
うを、この近さは俺でもちょっとドキドキするかも。
だって神童君てば近くで見てもめっちゃ整った顔してんだもん。しかも唇ぷにっぷに。
俺はグロスを時間を掛けて丁寧に塗り終わると、少し笑って神童君に囁いた。


「なんかドキドキしない?
この体勢ってキスする時と一緒だよ」

カーッと神童君の顔が一気に紅色に染まってく。
その頬の色はさっきと同じなのに、今は怒鳴る事無く俺の視線を避けるように神童君が俯いた。
唇が閉じきらずに開いてる。
呼吸がほんの少し乱れてる。

……ヤッバ、可愛いすぎるでしょ。


俺は神童君の脇に腰掛け、神童君の肩を掴んだ。
ギシッと神童君が強張るのが指先に伝わる。
あは、俺がまたエッチなことすると思って身構えちゃったかな。
俺は意に介さず神童君をベッドサイドの壁側へと向きを変えるように促した。
俺の行動に戸惑いながらも、エッチな事じゃなかった安堵からか神童君が素直に壁のほうへと向きを変えた。
ベッドの脇にはラブホらしい大きな鏡がある。


「ね、見てごらん。
神童君てば女の子にしか見えないよ」

息を呑んで神童君が大きな鏡を見つめる。
その中に映るのは緩いウェーブの掛かったミディアムロングの髪のワンピースのお嬢様風な女の子。
神童君が自分の姿にほぅと息を吐き出した。

神童君が自分の姿に眼を奪われている間に、俺はベッドにあがり後ろから神童君の腰に手を回す。


「ラブホで男とイチャついてる淫乱な女の子にね」

鏡の中の神童君がピクッと強張った。
大人の男に後ろから腰を抱かれ、ワンピースを着た神童君が鏡の中で紅潮した顔で泣きそうに眉を寄せている。
俺の目にはどう見ても援交してる女の子が羞恥プレイで強請る寸前に見えてるんだけど、神童君は自分の姿をどう見てるのかなぁ?
ま、どう贔屓目に見ても発情してないってのは嘘になっちゃうだろうけどね!

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