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二人が欲望を吐き出したそこを舌で掃除を始める。
その姿が可愛くて、俺は二人の頭を撫でる。
不動は頭に俺の手を感じた瞬間、気持ち良さそうに目を細める。
鬼道は頭に俺の手を感じた瞬間、嬉しそうに頬を染める。
愛おしさでもう一度欲望が首を擡げそうになった時、不動が舌を出したまま俺を見上げて訊ねる。
「なあ、結局お前どっちがいいんだ?」
・・・はっ!?
「だからぁ〜、タオルだよ、タオル!」
・・・ああ、そういえば最初はそれが切っ掛けだったな。
その後にあったことが強烈だっただけに、俺はすっかりそんなこと忘れていた。
「ああ、そんなこともあったな」
ぼんやりとそう答えると、途端に不動に頭を叩かれる。
「ボケが!!
ぼんやりしてねぇで、さっさと答えろ」
不動と鬼道が着乱れたままの格好で俺を睨みつける。
・・・ああ、こんな風にさっきも睨まれたっけ。
なんだかそれが随分前に感じる。
「お前、俺で童貞卒業したんだもんな。
俺の方が好きだろ?な!?」
そう言って不動が詰め寄る。
「それを言ったら、キスは俺の方が先だしフィニッシュは俺だ。
がばがばのお前より、俺の方が好きに決まってる」
詰め寄る不動を制して、鬼道が言う。
「てめぇ、それを言ったらお前はじじぃ好きの悪食じゃねぇか!
影山だけじゃ飽き足らず、円堂のじぃさんにまで手ぇ出しやがって。
ガルシルドにもあと少しで靡くところだったんじゃねぇの!?」
「それこそ貴様は尻軽な癖に、薄幸そうな奴に弱いじゃないか!
監督に、デモーニオ、それにブラジルとイタリアの奴にも手を出していたじゃないか!?
それにチームメイトの飛鷹にまで色目を使って!
悪女の深情けとはこのことだな」
「なんだと!?」
「なんだ!?」
二人してお互いの胸倉を掴んで一触即発の状態でにらみ合う。
「なあ、いっそのこと違う色にしないか?
赤なら、不動が前入れていたタトゥーの色だし、鬼道の瞳の色だろ?
二人にぴったりだ」
俺が二人を宥めるように、にこにこと二人の頭を撫でながらそう言うと、二人同時に手を払い除けられる。
「???」
俺がきょとんとしていると、鬼道はゴーグルを顔に着け、不動は服を着だす。
「そういう問題ではない」
鬼道が吐き捨てるように言う。
「優柔不断も大概にしやがれ」
不動も吐き捨てるように言う。
「いいか、どんなスポーツでも一瞬の判断が勝敗を分けると言っても過言ではない。
特にお前はGKだろう。
迷いが即失点に繋がるポジションではないか」
服の乱れを整えながら、訥々と鬼道が説教を始める。
「こんだけ引っ張っておいて、どっちも嫌だなんて言いやがったのは、てめぇが初めてだ!」
下を履きながら、不動が噛み付くように怒鳴りだす。
「佐久間なんざ即答だったぞ!」
不動がそう言ったのを切っ掛けに、二人は俺を無視して言い合いを始める。
「まあ、あいつには黄色は似合わんしな」
「理由はそれだけじゃねぇだろ!?」
「そうか?まあ、俺の人徳の賜物だな」
「チッ、道也は絶対俺を選ぶと思ったのによぉ。
質問をしくったぜ」
「違う質問でも同じ結果だと思うがな」
「はあ!?何言ってんだ!
青じゃない色だったら俺が勝ってたに決まってんだろ!?
あの近親相姦野郎、娘の好きな色だからって、何回も寝た俺よりも一回こっきりのてめぇを選びやがって!
ふざけんな!」
「・・・気付いてたのか」
「はっ、当たり前だろ!?
あんなあからさまに痕付けやがってバレない訳ねーだろが。
それにアイツ、娘と同世代に弱いからな。
いつかは手ぇ出すと思ってたぜ」
「まあな」
「だから、道也はノーカンな。
源田と佐久間で一勝一敗。
次で勝負だかんな」
「何を言ってるんだ。
佐久間も源田も俺の勝ちだ」
「はっ、うぜぇ。
勘違いもここまでくるとヤベぇな」
「ふんっ、どっちが!」
二人がまた睨みあう。
先に折れたのは不動だった。
「あ〜、めんどくせぇ!
源田も無しで、次で一発勝負でどうだ!?」
「よし、いいだろう。
次は円堂あたりでどうだ?」
「やだね!またお前のオトモダチかよ。
それより立向居あたりはどうだ?」
「ふっ、良かろう。
アイツとは俺の方が付き合いが長いからな。
俺を選ぶに決まっている」
「へっ、ばーか。
俺とアイツはベンチ仲間なんだよ!
付き合いの濃さなら絶対俺だね」
「・・・言ってて虚しくないか?それ」
「うっせぇ」
そこで漸く二人一緒に俺を振り返る。
「源田、早くしねーと置いてくぞ!」
「あいつらが待ってるから早くしろ!」
そう言って二人一緒に俺に怒る。
気が合うんだか合わないんだか分からない。
気まぐれで淫乱で負けず嫌いな二人に振り回されただけだと、やっと気付いた俺はこっそりと溜息をつく。
だが、災難はそれでは終わらなかった。
シャワーを浴びに行く前に、こっそりと鬼道に腕を引かれ囁かれる。
「源田、不動には内緒でまたお前と会いたい。
勿論今度は二人っきりでな」
鬼道はそれだけ言うと返事も聞かずにシャワールームに入る。
そして、シャワーを浴びている途中に、不動が忍んできて同じように囁く。
「源田ぁ、また今度俺とシようぜ。
勿論次は鬼道クン抜きでな」
不動はそれだけ言うと何も無かったように平然とシャワールームを後にする。
・・・ああ、もう。
俺はまだまだあの二人に振り回される運命にあるらしい。
俺はこれから俺に降りかかるであろう災難と、今日みたいな幸運が再び訪れるだろう未来に、もう一度長い長い溜息をついた。
END
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