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俺がどちらも選べず口篭っていると、
さっきまでベンチの上に座り込んで睨んでいた不動が、
四つんばいの格好で俺に近付いてくる。


「なぁ、源田ぁ。
お前はコイツより俺の方が好きだよなぁ?」

やけに語尾を延ばして不動が上目遣いで見てくる。

しなやかな不動の肢体を強調するその体勢は、どこを見ても体中から男を煽る色気を発散させていた。

俺はそんな色気なんてものに免疫がないから、口をぱくぱくさせて言葉にならない言葉を発しようと試みるが、ままならない。
不動の白く頼りなげな首とか、括れた腰、そして甘い匂いを発する唇から目が離せない。


「源田。
う〜、まあ、…その、…うん。
お、俺も、…好き、だから、
源田に選んでほしい・・・」

ぼうっと不動を眺めていると、
くいっと俺の服を引っ張りながら、俺と目も合わせずに珍しくはっきりしない口調で鬼道が言う。

プライドの高い鬼道が恥ずかしそうに、そう強請る様子は、男の庇護欲を堪らなく刺激した。

普段の鬼道を熟知している分、
その恥ずかしそうに小さくなっている鬼道に俺の頭は何も考えられない程、くらくらした。
その細い肩を抱き寄せたくて堪らない。


俺はふらふらと吸い寄せられる様に鬼道の肩に手を置いた。
肩に手を触れた瞬間、鬼道が大きく驚いたように身じろぐ。
でも、俯いたまますぐ嬉しそうに口元を綻ばせ俺の名前を囁いた。

「源田」

その声だけでぞわぞわと背筋を走るものがある。

「源田」

吐息交じりで名前を呼ぶ、その口の動きしか目に入らない。
俺は無我夢中でその、俺の名前を紡ぐ可愛らしい唇にむさぼりついた。

ちゅっと触れると、ふるんとその身を恥らうように震わせる唇の感触が可愛くて、もう一度啄ばむ様にそこに重ね合わせる。
何回も触れるだけのキスをしていると、苦しくなったのか
「んっ」
と、鬼道が声を漏らした。


その小さな声は確かに鬼道のもので、
漸く靄の罹った頭でも鬼道にキスしてしまったことに気付く。
その事実と、
目の前で顔を少し上気させて俺のキスを拒むことなく受け止めている鬼道自身に堪らなく興奮して、
鬼道の口に自分の舌を捻り込む。

「ふぁっ…ふっ…んん」

鼻にかかった声を漏らして、鬼道がそれに応えてくれる。


鬼道とのキスに夢中になっていると、すぐ近くで大きな舌打ちが聞こえた。
そして急に顔を掴まれ、顔の向きを無理矢理変えられたかと思うと、
すぐさっきまで鬼道のものと重ねていた唇に違う唇が重ねられた感触がする。
その唇は、鬼道のものよりも肉厚で、絡まる舌も細く長く、俺の口腔で自由気ままに動き回る。

俺の口を十分堪能したその舌を口から出したまま、不動が俺の顔から自分の顔を遠ざける。
そのやけに赤い舌の先からは光る銀の糸が絡まっていて、それは俺の口へと続いていた。

「鬼道ばっかり、ずりぃ」

不動がしゃべるとその俺達を繋いでいた銀の糸が切れて無くなってしまう。
それがなんだか惜しくて、今度は俺の方からそのしゃべる口に自分の口を重ね合わせる。

自在に動く不動の舌に自分の舌を絡ませようとすると、
少しの間応えてくれるだけですぐまた俺の口内の探索に戻ってしまう。
俺も不動の口腔を満喫しようとすると、また俺の舌に絡んでくる。
その引いては寄せる波の様なキスは不動そのもので、
俺の舌は不動に翻弄される俺自身みたいだった。


 

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