競い合い



完璧に整備された室内グラウンドの鍵を閉めて、源田は駆け足で更衣室へと急ぐ。

こんな日に限って、監督に呼ばれるなんてツイテない。

今日は折角練習に鬼道がわざわざやってきて参加してくれたのだ。
練習中には話せなかったことや、練習中に気付いた点、改善すべき点など、
帝国の元キャプテンで、着眼点の鋭い鬼道に現キャプテンとして聞きたいことは沢山ある。
時間はいくらあっても多いということはなかった。


更衣室へ向かう途中で皆に会う。
その中に鬼道の姿はなく、もう帰ってしまったのかとがっくりくる。
いつもだったら、鬼道のことを大好きな大勢の帝国サッカー部員達に囲まれ、
鬼道が時間を気にして困惑するぐらいまで解放されないのに、今日に限って俺と話す前に帰ってしまうとは本当にツイテない。

「けっけっけ、お前がぐずぐずしてっから、鬼道さんもう帰っちゃったぜ〜」

辺見ががっかりとした源田をからかうように言う。

やっぱり帰ってしまったのか。

そう思って改めてがっかりしていると、辺見を背後から成神が蹴りを入れた。
ちょうど膝に辺りに入ったらしい辺見ががくっと崩れ落ちる。

「なーに言ってんだか。
源田センパイ、鬼道さん今日は時間あるって言うんで皆で飯食うことになったんス。
全然帰ってないですよ。
むしろなんか話があるからって更衣室で待ってます」

平然と先輩である辺見に蹴りを入れ、しかもそれを無視して源田に話しかける。

「そうか!」

帰ってないと分かると現金なもので忽ち気持ちが向上する。

目の前で辺見と成神が
「お前、今蹴っただろ!?」
「え?気のせいじゃないっすか?
俺がソンケーするセンパイを蹴る訳ないじゃないですか」
「てめぇ、言葉に心が篭ってねぇんだよ!」
とか言いながら、いつもどおりの喧嘩を始めるのも気にならない。


再び更衣室に急ごうとすると、すれ違い様、佐久間が源田の肩を叩く。

「頑張れよ」

「?…ああ」

何を「頑張る」のかは分からなかったが、激励を受けたので笑顔で応える。
源田は人の好意は素直に受けるタイプだった。


 

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