エピローグ1



 *****


「最近さー、宍戸が付き合い悪いよね」

「あっ、少林も思ってたでヤンスか!?
帰る時もいそいそとしてるし、何かあったでヤンスかね〜?」


部活が始まる前の部室で、着替えながら一年が話すのは同じ一年の宍戸の事。
つい少し前までは部活をサボってでも一緒に遊んでいたのに、今では部活後に一緒に帰る事さえ無くなった宍戸の事だ。
今も宍戸の姿は部室には無い。
居るのは一年と数名の二年。
一年の雑談に、ごそごそとロッカーを漁っていたマックスが顔を上げた。


「アレ、宍戸から聞いてないの?
あー…、もしかして内緒にしてんのかな?
プッ、バレバレなのにおっかしー」

意味深に笑うマックスに一年が顔を見合わせる。
近くに居た染岡や半田も、なんだ?と興味を引かれたみたいで着替えの手を止める。


「宍戸、何か隠してるッスか?」

「え〜?宍戸本人が言ってないのにボクが言っちゃっていいのかな〜。
っていうか、アレアレ〜?
もしかして皆気づいてなかったの〜!?あんなにもろバレなのに〜?」

わざとらしいマックスの態度に短気な染岡が頭を叩いた。


「うっぜぇなぁー!!御託はいいからさっさと言えってんだ!!」

「いったー!何も殴る事無いじゃん!!
自分が鈍いからって鋭いボクに当たらないでよ!!」

「分かったからさっさと吐・け!!」

ずいっと迫った染岡に、マックスはわざとらしく溜息を吐いた。
散々もったいぶった分、このまま隠しておくという選択肢はマックスには無い。
バレてる時点で隠し事は破綻していると考えるマックスは、宍戸のプライヴェートな事実をずばっと口にした。


「宍戸さー、最近よくない恋人が出来たデショ。
……男の」

自分の発言が十分皆を驚かせると知っているマックスはニヤリと笑って、そう付け足した。
そしてその発言は予想通り皆を驚愕の渦に叩き落した。
皆から驚きの声が上がる。


「ええー、本当でヤンスか!?」

「おとっ、男って嘘ぉおお!?」

「マジでか!?あの宍戸が!?」

皆が自分の爆弾発言に予想通りのリアクションをしてるのを満足そうにニヤニヤしていたマックスも半田の言葉で驚きの表情に変わった。


「なあ!お前は相手が誰だか予想ついてんのか!?」

「えっ、それも分かんないの!?」

先ほどまでのわざとらしさの無い、混じりけなしの驚きの表情に皆の視線もマックスに集まる。
そしてマックスも自分に集まった怪訝な表情に更に驚きを深めた。


「えっ?マジで皆、分かんないの!?
ええっ!?だってあんなあからさまに迫られてたじゃん!!
宍戸嫌がってんのに試合中とかべったべた触ったりとかして!!
あそこがくっついたのにはボクも驚いたけど、アレ気づかないって有り得ないから!!
誰か相談とかされてなかったの!?本当に!?」

マックスには驚きだった。
試合中のセクハラ行為も日常的なストーカー行為も別段皆に隠れて行われてはいなかったから。
むしろマックスにはそれらの行為を隠す気が無いんじゃないかとさえ思っていた。
それぐらい堂々とシャドウはそれを行っていた。
それなのに、今、宍戸と特に仲が良いメンバーの誰一人としてそれに気づいていないと言うのだ。
しかもあの宍戸が皆に黙っている事も到底信じられない。
自然と責めるような口調になってしまう。
言われた皆も思い当たるふしについ口篭る。


『シャドウ先輩って…、怖くないか…?』

『気づいたら俺の事を、イ、イヤラシイ目で見てるって言うか…』


少し前に宍戸本人が言っていた言葉。
端から冗談として笑い飛ばしてしまった言葉。

皆はそれを思い出していた。


「そういえば宍戸…」

「うん…」

皆の胸に苦いものが込み上げる。

「シャドウか…?」

確認するように染岡が訊ねれば、肯定するようにマックスが頷く。

「多分ね。
最近、宍戸部活に来るの遅いデショ?
アレ多分着替えするとこ見せたくないんじゃないかな?
帰りもユニフォームの上からジャージ着るとかしてるしね」

マックスの言葉に皆が改めて息を呑む。
そんな事さえ皆は気づいてさえいなかった。


「アレ、さ。
男同士だからとかじゃなく、ちょっとヤバいんじゃないの?
そもそもあんなにビビってたのに付き合うとかちょっとおかしいし。
って、噂をすれば…」

シッとマックスが話の途中で唇に人差し指を当てる。
見ればドアの外には人の気配。
ガチャリと中に入ってきたのは、今話をしていた宍戸本人だった。
宍戸本人ももう部活が始まる時間なのに、いつもと違って部室に大勢居る事に驚いたように動きを止める。


「あ、アレ!?なんでまだ皆居るんですか?」

気まずい雰囲気が部室に充満する。


 

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