運命の恋人



「お前は不思議だな…」

シャドウ先輩が小さく呟く。
……俺が不思議?
不思議なのはシャドウ先輩の方なのに、先輩から見たら俺の方が不思議なのか。


「お前には暗さなんて微塵も無いのに、人一倍劣等感は強い。
光り輝くものを好むのに、昏い闇を厭う事も無い。
傷つきやすいのに、それを引き摺る事は無い」

シャドウ先輩が重く覆いかぶさってる俺の前髪をかき上げる。
いつもは隠れているはずの、俺の小さな瞳が見えてしまっている。
恥ずかしくって、俺がいくらその手から逃れようとしてもシャドウ先輩はがっちりと俺の頭を押さえつける。
それどころか嫌がって恥ずかしがる俺を嬉しそうに見つめた。


「脆いのに、強く。
強いのに、脆い。
お前は見る度に印象を変える宝石のようだ。
お前は俺の運命の存在だ。
その脆さで俺を愉しませて欲しい。
そして、その強さで俺の孤独を埋めてくれ」


シャドウ先輩の眼差しはただでさえ刺さるように強い。
遮るものが無いと、心の奥の奥に突き刺さって、埋もれて、抜けなくなる。

どうしよう……。

こんなの慣れてないから、どうしていいか分からない。
心は大分シャドウ先輩に引き寄せられている。
だって、こんなに綺麗な人が俺を選んでくれたんだ。
嘘でもからかってる訳でもない。


俺の全てを知って、笑う事もなく、それでも俺がいいって言ってくれる。
…運命なんて、俺、初めて言われた。


今まで、綺麗なものは全部俺を素通りしていった。
今まで好きになった女の子が俺に振り向く事は無かったし、
ある程度物心付く頃には、不相応に美しい物は似合わないから諦めてた。

それなのにこの人は、こんな綺麗な顔して不細工な俺に執着してる。
俺を束縛したくて、俺の行動に四六時中目を光らせて追っている。
もう離さないと、今だって抱きしめたままだ。

ちょっと、…こんなの…ふわふわする。


ドキドキしてふわふわしてなんだか自分がリア充のイケメンになった気分だ。
モテるって気持ちいい。
誰かに好きって言ってもらうのがこんなにもそわそわするものだって初めて知った。

でも、そんな浮ついた気分にも見逃せない黒い影が一点だけある。
俺もシャドウ先輩も男って事は自分でも驚くくらい実は全く気にならない。
そうじゃなくて、シャドウ先輩の性癖だ。

シャドウ先輩の性癖は、俺を選んだ要因なんだろうけど俺からしたら迷惑以外の何者でもない。


「なんだ?
言いたい事があるならなんでも言ってくれ。
全て可愛いお前の望むとおりにしよう」

……ほら。
こんな風に綺麗な人から甘やかされたら、どうしたって気分がいい。


「あのっ!
あの、俺、痛いのとか、怖いのって嫌なんですけど…。
シャドウ先輩は…そういうのが好きなんですよね?」

恐る恐る訊ねると、返ってきたのは予想に反して微かに口角の上がった優しい表情だった。


「俺が最も好きなのはお前だ。
それ以外は些細な問題だ。
お前が嫌がる事をするつもりは無い。
お前はただ俺が与えた愛に応えてくれればいい」

シャドウ先輩が言葉を重ねる度、俺の中から恐怖が消えていく。
シャドウ先輩が思っている事を言葉にするだけで、あんなに不気味で何を考えているか分からなかったシャドウ先輩がどんどん魅力的に見えてくる。
ちょっと…、格好いいな、ってさえ思えてしまう。


「本当に…。
俺の嫌がる事、しませんか?」

「ああ、勿論」

シャドウ先輩は顔は文句無しだし、
言う事はいちいちロマンチックだし。
包容力はあるし、俺に優しいし。

うん。

確かに少し変わった趣味はあるけど…。
それでも。

…うん。


「宜しく、お願いしま…す」

なんだか照れくさくて、なんて返事していいか分からなくて変な感じの答えになってしまった。
だって「俺も好きです」って言っちゃったら嘘っぽくなっちゃうし、
「いいですよ、付き合いましょう」なんて上からの発言はいくら告白されたとはいえ、言い辛いし。

でも、そんな噛み噛みの微妙な答えでもシャドウ先輩は嬉しそうに笑った。


「ありがとう…!」

引き寄せられた胸は相変わらずひんやりとしていたけど、
これからここが俺の居場所になるんだと思うと、俺の胸はほんわかと暖かかった。


 

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