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「あ〜、なんか中途半端に菓子食ったら余計腹減ったなぁ」

壁山が持っていた菓子は、毎日大量消費の大量入荷らしく、
飴玉数個とポッキー一箱という期待していた程の量は無かった。
小さい物を摘めない吹雪にポッキーを食わせながら、一箱を半分こにするとあっという間に空になってしまう。

「あと三十分くらいの辛抱か」
二人でころころと飴を舐めながら時計を眺める。

「ごめんね、僕が面倒掛けたばっかりに」
吹雪が耳をしゅんと垂らして謝ってくる。
さっきからやけに静かだと思ってたら、そんな神妙な事を考えていたらしい。

「んだよ、お前のせいじゃねぇだろ」
俺がそう言っても耳は垂れたままだ。

「でも、部屋だって勝手に荷物移動されて僕と同室になってたし…」

そりゃ佐久間と同室だったはずが、
吹雪の部屋に来たら、見慣れた荷物があって驚いたのは確かだ。

「それを言ったらお前だって同じじゃねぇか」
吹雪だって数少ない個室組だったのに、今日からは俺と二人部屋ってことになる。
まあ、なんで二人用の俺の部屋じゃなく、やや狭い吹雪の部屋に移動なのかは納得いかないが。
それだって吹雪のせいじゃない。

「いや、僕は」
吹雪はそう言うと上目遣いで俺を見てごにょごにょと下を向いてしまう。

「…染岡クンと同室になれて、むしろ嬉しいし」

「何か言ったか?」

「ううん、何でもない!
何でもないけど、なんか染岡クンに悪くってさ」
いつまでもグダグダ言ってくる吹雪につい苛立ってしまう。
自慢じゃないが、俺は短気なんだ。
俺は立ち上がって、吹雪を見下ろす。

「おい、それはあれか。
遠回しに俺のこと責めてんのか!?
お前が色々日常生活に支障をきたしてんのは、そもそも俺のせいだろ!?

それにあれだ。
…お前と同室になったのだって別に嫌じゃねぇし。
今までだって二人部屋だったんだし、佐久間よりはお前の方が気楽だしな」
そう言ってしゃがみこんで、吹雪の頭を撫でてやれば、
垂れていた耳がぴーんと上を向き、尻尾がふりふりと横に振れる。

「・・・」
思ってもいなかった反応に思わず無言になる。


やべぇ。
これはやべぇ。

もう一度、吹雪の頭を撫でる。
吹雪は下を向いているのに尻尾はふりふりとまたはち切れんばかりに横に振れる。

俺は急いで吹雪にバレない様に顔を背ける。
ついでに口元を手で隠す。


やべぇ、これ可愛過ぎる。


「染岡クン?」
挙動不審な俺を吹雪が首を傾げて見て来る。
その姿は蓄音機の前で首を傾げる例の犬にそっくりで、
俺は慌ててさらに顔を逸らす。
無理な体勢に首の筋がぐきっと音を立てる。

「痛ぇ」

「大丈夫?」
俺がそう呻けば、吹雪がまた耳を垂らしてそう訊ねてくる。

だーかーらー、それがやばいんだって。

俺は心の中で悶えながら、出来るだけ顔に出さない様に心掛けながらコホンと咳払いを一回する。

「大丈夫だ」
俺は真面目な顔でそう言うと、もう一度吹雪の頭を撫でる。
やはりふりふりと尻尾が揺れる。


くっそー、こんなところで夢が叶うとはっ。

俺は小さい時から、大きいけど飼い主に従順な犬を飼うのが夢だった。
それは母ちゃんがでかい犬は怖いって言うんで今まで叶うことは無かったが、
まさかこんな形で叶うとは思ってもみなかった。


吹雪が可愛いペットにしか見えなくなっていた俺は、
吹雪が不審がるまで何回も何回も頭を撫でては揺れる尻尾を満喫した。


 

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