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風呂に入ったら入ったで、吹雪は色々やらかしてくれた。
体を洗おうとスポンジを手にしたら、そのスポンジに爪が嵌って取れなくなり、
頭を洗おうとしたら、鋭い爪のせいで頭に蚯蚓腫れを作った。
勿論、風呂から出ても吹雪が一人で服を着れる訳もなく。
俺達がやっとこさ夕飯を食べる為に食堂に向かった時には、もう食堂には誰もいなかった。
「おい、飯は?」
食堂の明かりを半分落とし、流し場で洗い物をしているマネージャー三人に声を掛ける。
「あ、あれ!?」
俺が声を掛けた途端、吃驚したように目を丸くした三人に激しくいやな予感がする。
「おい!!まさか!?」
「えへへ〜、そのまさかなの。
…ごめんなさい、もうご飯ありません」
かぱっと大きな空の炊飯器を開けて見せながら、
木野が困った様に笑ってから、頭を下げた。
「マジかよ!?」
「ご、ごめんなさい!
ちゃんと人数分用意したのに残ってないから気付かなかったの!
今、ある物で急いで何か作るから、ちょっと待ってね」
木野は俺達の分まで食べた野郎(犯人は確実にアイツだ。あとで殺す)が悪いのに、
本当に申し訳無さそうに謝ってくる。
それでなくても女相手に怒れないってのに、そんなんじゃ余計怒れない。
「わりぃ、面倒だろうけど頼むわ」
軽く頭を下げて、テーブルで待つと、すぐ出てきたのは、味のりだった。
練習後で、しかもいつもより大分時間が遅れて腹の減っていた俺達はおかずと言うには微妙なそれをぺろりと食べてしまう。
俺達は米が無いのは知っているから、
主食はうどんかスパゲティかって予想を話しながらちゃんとした料理が出てくるのを待っていた。
…でも次に木野が持ってきてくれたのは梅干だった。
「えっと、わりぃけど俺達腹減ってるから、もっと腹に溜まるもんが食いたいんだけど」
味のりも梅干もはっきり言って料理とは言いがたい。
忙しいのは分かるけど流石にあんまりだ。
でも、俺の言葉を聞くと木野はさっと目を逸らしてしまう。
「木野?」
「ごめんなさい!
今、パスタもうどんもパンも切らしているし、目ぼしい食材は明日の朝用の物しか無いの。
今すぐ出せるのは、お漬物と、
それから明日のお味噌汁がわかめと葱だけになっちゃうけど、冷奴ぐらいしか…」
は…?
ということは…。
「俺達は夕飯無しって事かよ!?」
俺は思わず立ち上がってしまう。
「そっ、そんなことないよ!
今ご飯は炊いてるから、おにぎりぐらいなら作れるから。
…ただ、あと一時間弱ぐらいは掛かるってだけで」
両手で手を振り、木野が慌てた様に俺の言葉を否定する。
まあ、あんまり良い報告では無かったが。
俺はがりがりとつい癖で頭を掻いてしまう。
そんな俺を見て木野がフォローするように言う。
「おにぎり出来たら持っていくから、部屋で待ってていいよ?」
俺達はその言葉に甘えることにした。
部屋に戻る途中で、俺らの飯まで平らげたであろう犯人の部屋に寄る。
「おい、こらぁああ」
バーンとドアを蹴り開けると部屋の主は大きい体をびくっと縮込ませる。
「てめぇ、俺らの飯、食っただろ!
ネタは上がってんだぞ、おい!」
胸倉を掴んで壁山を締め上げると、助けを求める様に部屋にいる他の一年を見る。
が、当然その視線に応えるような一年はいない。
「すみませんでしたッス」
素直に罪を認めた壁山が、土下座して許しを請う。
優しい先輩である俺達は、犯人が隠し持っていたお菓子全てで許してやることにした。
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