デート



染岡は駅前でイライラしながら、約束の時間から30分経っても現れない待ち合わせ相手を待っていた。
ったく、アイツ自分から誘っておいてこんな遅れんなよ。
苛々しながら染岡は、駅前の時計が付いたモニュメントを見上げた。
チッ、もうすぐ40分になるじゃねーか。
今日何度目かの舌打ちをした瞬間、漸く待ち人の声が背後からした。


「染岡く〜ん、遅れちゃってごめんね〜」

「遅せぇぞ、コラ」

吹雪の呑気な声に振り向いて怒ろうとした染岡は、自分に走り寄ってくる相手の姿にぎょっとする。


「なんで、女装してんだよ!!」


待ち合わせ相手の吹雪士郎は
ノルディック柄のポンチョに黒のインナー、
黒のコーデュロイのショートパンツに青と黒の縞々のオーバーニーのハイソでムートンブーツを履いていた。


「女装じゃないよ!?」

出会って一言目が挨拶でもなく女装かよってツッコミだったことに吹雪は憤慨した。
欲を言えばツッコミよりも感想が欲しかった。


「男が普通こんなポンチョ着るかよ!」

「鬼道クンだって男なのにマント着てるじゃないか!」

「鬼道のアレだって充分変だろーが!」

「まあ、鬼道クン確かに周りから浮いてるけど・・・」

鬼道がこの場に居なくて良かったと心から言わざるを得ない。
鬼道に対する二人の評価が知れたところで、吹雪は自分の着ているポンチョの裾を掴みながらポツリと訊ねた。


「やっぱり染岡クンもこれ女装に見える?」

「さっきから散々そう言ってんじゃねーか」

「僕もさ、なんか変だなって思ってたんだよね。
でも、松野クンがこれがいいって言うから・・・」

「マックス?」

吹雪とあまり面識がないであろうチームメイトの名前が出て染岡は驚く。


「うん、この服全部、松野クンから借りたんだ」

「あいつから!?」

確かにマックスの一風変わった洋服センスならこういう服を持っていても可笑しくはない。
でも、ほとんど面識のないコイツがいきなりマックスから服を借りるっていう経緯がわからない。
染岡は首を捻った。


「いつの間にアイツと仲良くなったんだよ?」

染岡が素朴な疑問をぶつけると吹雪は今日朝からあったことを語り始めた。



「実はね・・・

私服を全く持たずにキャラバンに参加した僕は、染岡クンを誘ったはいいけど雷門ジャージしか持ってなかったんだ。
染岡クンは私服で来るだろうし、流石に学校のジャージで出かける気になれなくて、
キャプテンに服を借りる約束を昨日してたんだ。
で、今日実際に服を借りにいってみると、キャプテンの服もジャージばっか。
私服っぽい服なんて少ししかなかったんだ。
その少ない服も全部ぶかぶか。
身長は同じくらいなのに、ぶかぶかって可笑しいよね。
やっぱりGKやってるくらいだから骨格がしっかりしてるのかな?
それはいいとしても、借りられる服が無くてキャプテンと二人で考えたんだ。
誰か他の人に借りようって。
もう当日だし、待ち合わせ時間も迫ってるから、誰に借りに行けばいいかよく考えてから決めよう。
それでね、豪炎寺クンと風丸クンはキャプテンよりちょっと身長が大きいでしょ?
それでアウト。
鬼道クンちは車か電車で行かなきゃならないくらいおうちが遠いからアウト。
一之瀬クンはアメリカから来てて、土門クンちに居候してるらしいから、キャプテンみたいに服が少ないかもって思ってアウト。
土門クンとか壁山クンなんかはもちろん問題外でしょ?
そうなると僕こっちに知り合いなんてそれぐらいしかいないからキャプテンに聞いたんだ。
誰か丁度いい人いないかって。
そしたら
『そうだ、マックスなんかいいんじゃないか!?
背番号も一緒だしユニフォームぴったりだっただろ?』
って言ってくれて。
一緒に松野クンちまで行ってくれたんだ。
面倒見いいよね、キャプテンって!
でもよく考えるとユニフォームは僕用に新しく用意して貰ったんだし関係ないのにね。
キャプテンもうっかりさんだよね。あはは。
でね、いきなり行ったのに僕が染岡クンと出掛けるからって言ったら、松野クン快く服を貸してくれるって言ってくれて。
すごいんだよ、松野クンち!服が沢山あってビックリしちゃった!
どんどん服出してきて僕に似合うの選んでくれたんだ。
でも松野クン、ちゃんと僕にも意見聞いてくれるんだけど、どっちがいい?って聞き方するんだよね。
出してくれる服全部がなんか女の子っぽくって。
どれを選んでもなんか女装っぽくなっちゃっうんだよね。
でも、親切で貸してくれてるのに断るわけにもいかないし時間も過ぎちゃったから結局この服で来たんだ。
ねえ、やっぱり変かな?


そう長々と話した吹雪は最後にそう言って傍らの染岡を仰ぎ見た。
その姿はどう見ても女の子、しかもとびきり可愛い女の子にしか見えない。
染岡は慌てて目を逸らす。


「変だけど、まあ似合ってるしよ・・・」

もごもごと不明瞭に呟くと、染岡は大きな鼻を照れたように掻いた。

「・・・いいんじゃねえか?」

小さく付け足された染岡の言葉に、吹雪は満足そうに満面の笑みを浮かべると染岡の腕を取った。


「じゃあ、もう行こう!
僕、お腹空いちゃった。
噂の響木監督のラーメン屋さん連れてってくれるんでしょ?」

そう言うと吹雪は未だ顔の赤い染岡の腕を引っ張る。
そのまま走りだせば、自然と繋がれる手。

「おい、引っ張るなよ」

染岡が怒って言うけど、吹雪は無視して走り続ける。




その繋がれた手を見て吹雪は心の中で松野に感謝する。
『染岡は単純だから生足見せたら簡単に食いついてくるって』
そう言って松野はショートパンツとハイソックスを選んでくれた。
あの時、目金クンじゃなく松野クンのところに行って良かった。
本当は円堂に目金は?って聞かれたときに松野を紹介して欲しいって頼んだのは吹雪の方からだった。
そのお陰で染岡が自分にドキドキしてくれた。


もう一度、吹雪が染岡の方を見ると、仏頂面だけど微かに頬を染めた染岡がいた。


自分の予想以上にちゃんとしたデートになりそうな予感がして吹雪は握り締めた手に力を込めた。


 

prev next




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -