ざ・ばーす



「えっと〜、おむつどこだったかな?」

「おい、ベンチに赤ん坊置いたまま、余所見すんな馬鹿!」

練習中に泣きだした赤ん坊のオムツを替えている途中で、吹雪がベンチの下に常備してあるママバッグを漁り出す。
意識は完全にバッグの中。
赤ん坊なんて完璧に視野に入ってない。
もう三日目だっていうのに危なっかしくってはらはらする。
案の定、吹雪が目を離している隙に寝返りをうってベンチから落ちそうになっている赤ん坊を慌ててキャッチする。


「大怪我させてから、ついうっかりじゃすまねぇんだぞ!」

「あっ…、ご、ごめんなさい」

俺が怒鳴りつけると吹雪はバッグを抱えたままへんにゃりと眉毛を下げて泣きそうな顔で謝ってくる。

はっきり言って俺はこの顔に弱い。
頭には垂れた獣耳が見える。
幻覚だと分かっていても、見えちまうもんは仕方ない。


「う〜、…ま、何事も無かったし。
…次からは気をつけろよ」

俺は怒りを持続できずに、早くも吹雪の頭を撫でてしまう。

ちなみに吹雪の頭を事ある毎に撫でてしまうのは俺の癖だ。
吹雪が半分狼だった頃の名残だ。
決して吹雪が今でも可愛くって堪らないとか、
ましてや吹雪のことが好きだから少しでも触れていたいなんて浮ついた理由ではない。
・・・無いに決まってるだろっ!

「うんっ」

俺がもう怒っていないと分かると、吹雪の野郎は早くもにこにこ顔になる。
ったく、本当に反省してんのか、コイツ!?
そもそも全く同じことを初日も昨日も言った気がする。

でも、その俺の疑いを余所に、吹雪は俺の腕の中から泣いている赤ん坊を受け取り、にこにこと赤ん坊をあやし始める。


「ごめんね〜、もう君から目を離さないようにするからね〜。
大丈夫だよー、基山クン」

泣き止まない赤ん坊をいつまでもあやす吹雪。

ったく、オムツ濡れてんだから泣き止まないに決まってんだろーが。
オムツ替えの途中だったの、もう忘れてやがる。


「おら、俺がオムツ替えっから赤ん坊早く寝かせろ。
かぶれたら可哀相だろーが」

結局また俺がオムツを替えることになってしまう。
練習に戻れるのはまだまだ先だ。



俺は不屈の精神と高い志を持って、イナズマジャパンに合流したはずだった。

でも、そこでの主な俺の役割は、
吹雪の飼育係りが任務完了になったあとは、
吹雪のせいで赤ん坊になってしまった基山の世話係だった。
ようするに基山のママになった吹雪が危なっかし過ぎて、
二人の面倒を俺が見ているって訳だ。

何の因果か知らないが、俺のお節介な性分をここまで嫌になったのは初めてだ…。


 

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