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「はあ!?何言ってんだよ、まだ寝ぼけてんのか!?
目ぇ開けてよく見てみろ!
お前の前にいんのは誰だ?」
俺は急にとち狂った吹雪の目を覚ます為に、
大声で言う。

俺に向かってしゃがみこもうとしていた吹雪は、驚いた様に動きを一瞬止める。

「染岡クン」
でも、ほっとしたのも束の間、吹雪はにっこり笑ってそう言うと俺の頬を毛むくじゃらな手の甲で撫でた。
それだけでぞわぞわってして力が抜けちまう。

「ねえ、染岡クン。
僕また大きくなっちゃった。
飼い主なら責任取ってくれるよね?」
吹雪が俺の首の匂いを嗅いでくる。
くんくんと鼻を鳴らして嗅いでいるのが、恥ずかしくって堪らない。
俺なんて絶対良い匂いなんてしないのに、
吹雪だって汗臭いのは嫌いだって言ってたのに、
何が楽しくてそんな所に顔を寄せてるんだ。

「責任って、…そんなもん、どうすりゃいいんだよ!?」
俺はぐいっと吹雪の肩を押しのける。
それでなくても、さっきから吹雪の行動は意味不明でさっぱり訳が分かんねぇっていうのに、
いつまでもそんな近くに顔があったんじゃ落ち着いて考えることもできねぇ。

離れていく吹雪の顔に漸く一息ついたってーのに、
吹雪はまた俺を更なる混乱に叩き落す台詞を吐きやがる。


「簡単だよ。
…僕に食べられて?」

「はあ!?」
俺、さっきから「はあ!?」って何回も言ってんな…。
なんでコイツの話は支離滅裂で話題の矛先があっちゃこっちゃ行くんだ?

「おいっ、お前さっきは我慢できるって言ってたじゃねーか!
腹減ってんならチョコ食え、チョコ!」
俺はチョコを取ろうと吹雪の下から抜け出ようと腰を浮かす。
でも、吹雪は俺の腰の辺りに座り込んでクスクスと身を捩って笑い出すから、
俺は立ち上がることも出来ない。
なんで吹雪が笑ってんのかさえ分からない俺は、
呆気に取られて、ただ吹雪を馬鹿みたいに見ることしか出来ない。


「やっぱり染岡クンてば僕に本当に食べられると思ってたんだ。
…そんなことしないよ?
だって本当に食べちゃったら、こんな可愛い染岡クンがもう二度と見れなくなっちゃうもん」
そう言うと吹雪がさっきみたいに頬を手の甲で撫でてくる。

「ふぇっ…それ、止めろってぇ」
ざらざらした手が何度か俺の頬を行き来するだけで、全身の力がふにゃって抜けちまう。
吹雪の腕を押し退けようとしても、全然力が入りやしねぇ。

「かーわい」
吹雪は頬を撫でるのを止めたと思ったら、今度は首に歯を立ててくる。
弱い弱い甘噛みだったけど、それでもまた食われる恐怖で身が竦む。

「やっぱ、食う、のか?」
格好悪ぃ、声が震えてやがる。
覚悟決めるなんて言った癖に、実際食われそうになると怖くて堪らない。

「やだな、食べないって言ったでしょ?」
でも吹雪はクスクス笑うだけ。
俺の首元で笑うから吹雪の息が首にかかる。
逃げたいのにぞわぞわってして動けない。

「でも、そうだな。
染岡クンがどんな味するのかは知りたいな。
どんな味がして、どんな声出して、どんな顔するのか。
どうしたら分かる?
染岡クンの全身に触れたら分かる?
染岡クンの全身を舐めたら分かる?
…それとも僕のコレ、染岡クンの中に入れたら分かるかな?」

コレ?
コレってさっきの狼さんのことか?
俺は吹雪の言葉と共に移動していった手の先を見る。

そこにはさっきよりも勢いを増した狼さんがいた。


「えっ?えっ?ちょっ…えぇー!?」

「やっと『食べる』って意味分かった?」
混乱する俺にお構い無しに吹雪がくすくす笑いながら俺の首に顔を寄せてくる。

「えっ、ちょっ、えっ!?
それって、どういう意、ふぅんっ」
話してる途中だってぇのに、首筋に吹雪の唇を感じて勝手に体が跳ねる。

「えっ、おいっ、ちゃんとっ、説明、しろってぇのっ」
一箇所だけじゃなく何箇所も何箇所も吹雪は俺の首に顔を寄せ、痛いくらいに吸っていく。
しかも口を離すときにオマケとばかりにソコを舐めていくから、体が何回も跳ねてちゃんとしゃべることもできない。
さっきからずっと混乱しっぱなしで落ち着いて頭ん中整理したいってーのに、
吹雪がどんどん俺にじゃれ付いてくるから頭がもっとぐるぐるしてくる。

今のこの状況は一体なんなんだ!?

吹雪は俺を食べるつもりはないって言ってるけど、違う意味で食うつもりで。

俺からは吹雪のでっけぇ耳と揺れる尻尾しか見えないから、
犬がじゃれついて首をぺろぺろ舐めてるようにしか思えないけど、
そんなんじゃ説明できないような感覚がさっきから俺の中に微かにあって。

それに吹雪は犬じゃなくて獰猛な狼で。
そんでもって吹雪の狼さんはそれこそ牙を剥いている状態で、
しかもその獲物は俺らしい。

なんで俺!?
だって俺だぞ!?この俺だぞ!?
俺はどっから見ても赤頭巾ちゃんには見えないし、
強いて言えば熊とか猪とか、どう見たって狼の仲間の一種だろ!?
つーかむしろ俺より吹雪のが可愛いだろーが!!

俺がなんとか弾む息の合間にそう叫ぶと、吹雪がやっと俺の首から顔を起こしてくれる。
体が離れて顔を見るとやっぱり吹雪で、
犬がじゃれてる訳じゃねぇって改めて気付かされて顔が赤くなる。


「説明まだ必要?」
こくこく頷く俺を見て、吹雪はなんで分からないんだって言わんばかりの不思議そうな顔をする。


「僕は染岡クンが好き。
我慢できなくなったから染岡クンとエッチしたい。
というか、今してるところ。以上」

 

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