16



俺が急いで温かい濡れタオルを用意して戻ってくると、吹雪は俺が部屋を出た時と同じ格好で座っていた。

「お、ちゃんと逃げないで待ってたか」
俺がほっとして声を掛けると、吹雪が俺の方へ顔を上げる。
その顔はぽけっとした見慣れた吹雪の顔で、
羞恥心も怒りもその顔には浮かんでいなかった。
しかもいきなり意図の分からない質問をしてくる。


「染岡クン、なんで僕にチョコくれたの?」

「はあ?なんでってお前が我慢できないって言ったからだろーが。
もっと食うだろ?」
俺がチョコの袋を出すと、何故か吹雪は顔を横に振る。

「なんだよ、もう腹いっぱいになったのか?
我慢できないんだったら遠慮しないで食えよ。
俺を食うより絶対旨いから」
俺がチョコの包み紙を剥いてやろうとしていると、吹雪の肉球の付いた手が俺の手に重なる。

「大丈夫だよ。そっちは我慢できるから」
にこっと笑う吹雪は、さっきまでと違ってやけに機嫌がいい。

「それよりさ、早く拭いてくれる?
こっちはもう我慢できないんだ」
しかもこんなことまで言ってくる。


「んだよ、さっきまで嫌がってた癖に急にどうした?」

「うん、なんか待ってる間に色々気付いたんだ。
それに僕は君のものだって改めて分かったし」
吹雪の言葉に俺は顔が熱くなる。


だ〜〜、さっき頭に血が昇ってそんなこと言っちまったな。
俺がコイツのことペットみたいに思ってるってこともバレちまったし、穴があったら入りてぇ。

俺はばりばりと頭を掻いて、そっぽを向く。

「おら、さっさと立て」
俺は立ち上がった吹雪の前にしゃがむ。
俺は恥ずかしくって話を逸らす為に、吹雪の服をさっさと脱がすことにした。


「熱くないか?」
あまり見ないように、脱がしてすぐソコに濡れタオルを押し付ける。

「うん、気持ちいいよ」
吹雪の返事に安心して、タオルをごしごしと擦る。

でも、時間の経ったソコは見ないでただ擦っただけでは綺麗にならない。
俺はもう一度頭をがしがし掻く。

流石に他の野郎の精液なんざ見たことも触ったことも無い。
しかもあんま男っぽくない吹雪のものだと思うとやけに変な気分になる。
でも、まあこういう事態を想定せずに十日以上放置したのは俺だし、
下手に俺が嫌がって、恥ずかしくって死ぬとまで言ってた吹雪にこれ以上嫌な思いもさせられねぇ。

俺はソレを手で持ち上げ、周りにこびり付いた粘液をタオルで擦り取り始めた。


「おい、頭撫でんの止めろ」
それでなくても気まずいっていうのに、何を思ったのか吹雪は俺の頭を撫でてくる。
肉球の付いた手はぷにぷにとしていて俺の短い髪の毛を寝かせるように動く。
下から睨みつけると困ったように吹雪が笑う。

「ごめん、つい。
…染岡クン、顔赤くなってるよ」
愛おしそうに吹雪が目を細めて俺を見る。

「〜〜〜〜」
俺はなんだか恥ずかしくなって、慌てて顔を俯かせる。

ペットはコイツの方で、
俺は世話をしているはずなのに、
吹雪がそんな顔して頭なんざ撫でやがるから俺の方がなんだか愛玩動物になっちまったみたいだ。
自分が可愛らしい小動物になったみたいで落ち着かない。


「染岡クン、可愛いね」
止せって言ったのに、また吹雪が頭を、
というか頭から耳、そしてうなじに沿って毛の生えた手の甲で撫でてくる。

「うひゃあ」
背筋がぞわってして思わず変な声が出る。

「染岡クンて結構敏感なんだね。
…嬉しいよ」
しかも顔を耳に寄せて、そんなこと言いやがるから本当に始末に負えない。


「お客さん!?うちはお触り禁止ですから!!」
吹雪相手に変な感じになっているのが恥ずかしくって、
俺が堪らずそう言うと、俺の狙い通り吹雪が笑いだす。

ちゃんと冗談で終わったことにほっとした俺は作業に戻ろうと視線を戻した。


「!!」
でも俺はぎょっとしてタオルを落としてしまう。


さっきまでお行儀良くしていたソコは、まさに狼のごとく臨戦態勢になっていた。


「えっ、えっ、なんでだよ!?」
俺は混乱して、その持ち主である吹雪を見上げる。

いくら触ったとはいえ……。
いやっ、でも触ったのは野郎で、つーか俺で!しかも出したばっかりなのに。
でも、吹雪はまた極上の笑顔を俺に向けてくる。


「染岡クンが風俗嬢だったら僕、毎日通っちゃうな。
まあ勿論、そんな仕事僕が絶対許さないけどね」


 

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