15



俺の怒鳴り声に吹雪の体がびくっと揺れる。
俺がお構い無しにずかずかと近付くと、俺から逃げる様に背を向ける。
その態度がさらに俺を煽る。


「てめぇは関係ねぇ」
声が漏れ聞こえる喧しい携帯を拾い、一言だけ言い捨て、携帯を吹雪の方へ投げ付ける。
がっといい音をさせて携帯が吹雪のすぐ横に落ちて、バウンドする。
やっと雑音が消えた。


「こっち向け」
俺の声から逃げる様に座ったまま吹雪がずりずりと移動する。


「こっち向けって言ってんだろがっ!」
もう一度怒鳴ると、やっと吹雪が顔だけをこちらに向ける。

振り向いた吹雪は真っ赤な顔で、泣きそうなのに俺を睨みつけていた。


・・・いらっとする。

俺は本当に可愛いと思っていたのに、
こいつだって俺に懐いていたのに、
なんだって急に…。


「なんで急に他の奴に助けなんて求めんだよ?
俺の世話になんのはそんなに嫌か!?」

「嫌じゃないよ!
でも嫌なことだってある!」
俺の怒鳴り声に負けないくらい大きな吹雪の声。
珍しい吹雪の怒鳴り声。
俺が一瞬たじろいだ隙に、吹雪が真っ赤な顔で一方的に怒鳴りだした。


「染岡クンがくれた言葉が嬉しかったから、僕は君の望む僕でいようって思った!
君が僕をペットみたいに思ってる事も知ってる。
でも、こんなことまで染岡クンにさせたら、僕は恥ずかしくって死んじゃう!」

「恥ずかしくって死んじゃうようなことは俺じゃなくって基山にやらせんのか!?」

「もうっ、何で分かってくれないんだ!
そうじゃなくて、染岡クンだけには絶対知られたくないって言ってるんだ!
もういいから早くどっか行ってよ!」
吹雪はそう言い捨てるとぷいっとそっぽを向く。
完全に俺に背を向けた吹雪にぶつっと最後の線が頭の中で切れる。


「…ざけんなてめぇ。
てめぇは俺のもんだって言ってんだろーが!
どんなことだろーが俺が全部やってやる。
他の奴なんかに今更お前はやれねぇんだよ!!」
俺に背を向けている吹雪の肩を思いっきり引き摺り倒す。

「うわ」
不意を突かれたのか俺の渾身の力に吹雪が呆気なく床に倒れる。



仰向けに倒れた吹雪は、
耳も眉毛も口さえもへにゃりと下げていた。

「〜〜〜染岡クンの馬鹿ぁ」
真っ赤な顔でそう言うと顔を手で隠し、
体を捩って、隠したかったであろうソコを隠した。

「…悪ぃ」
俺はがりがりと頭を掻く。

まあ、なんだ。
吹雪が隠したかった理由が分かってしまうとあんなに意地になって暴きたてた自分が忽ち申し訳なくなってしまう。
ナイーブな男心ってやつも分かるしな。


「おい気にすんなって。
十日以上してなきゃ溜まって当たり前だろうが。
夢精なんて不可抗力なんだしよ」

「…もういいから早くどっか行って」
吹雪が俺に背を向ける方へごろんと転がる。

「んだよ、そのままじゃ気持ち悪いだろ?
今拭いてやっからちょっと待ってろ」
俺がそう言うと、吹雪が急に体を起こして俺の方を睨む。

「もうっ!
絶対そう言うと思ったから染岡クンには知られたくなかったんだ!
そんなことされたら我慢なんてできないよっ!」
真っ赤な顔で俺を睨んでいるが、俺には吹雪が何で怒っているかさっぱり分からない。


「何だよ、我慢って?」

「忘れちゃったの!?
そんなんじゃ、また僕に襲われても知らないからね!」
目を剥いて更に吹雪が怒る。

ああ、なんだいつもより早い時間に目が覚めたから腹が減ってきたのか。
俺は腹ペコ対策として常備しているチョコを俺のバッグの中から出してやる。


「あーん」
条件反射で口を開けた吹雪の口に一口チョコ
を放り入れてやる。

「すぐ濡れタオル持ってくっからな。
戻ってきたらもっと食わせてやっから、他の奴襲うんじゃねぇぞ」
俺はそう言って口をもぐもぐしている吹雪の頭を撫でた。

「しょめおきゃクン!」
背後で抗議の声を上げる吹雪を無視して、俺は部屋を出た。
それこそ吹雪が他の奴を襲うかもしれないし、
俺に後処理されるのを嫌がって逃亡するかもしれないから、風丸なみの猛ダッシュだ。


 

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