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自分の部屋に戻ると、染岡クンはすっごい怒っていた。

「てめぇ、どこ行ってたんだ!
部屋に姿が見えねぇから本当に心配したんだぞ!」
部屋の中は収納という収納が全部開いていて、僕は思わず笑ってしまう。
だって机の引き出しまで開いてるんだもん。

――いくら僕だってそんなところに隠れられる訳ないのに。
本当に染岡クンって天然だなぁ。


「ごめんね、ちょっと基山クンのところに行ってたんだ」
僕がそう言うと染岡クンは面白く無さそうに口をへの字に歪ませる。

「んだ、それぇ!?
ふざけてんのかよ、てめぇ!!」
どかっとローテーブルの脚を蹴る。
テーブルが斜めになって隅にある机の椅子に当たる。

「…一人になりたいって言ってた癖によぉ」
そっぽを向いてそう呟く染岡クンは可愛くて、どうしたって胸がきゅうんと疼く。

「うん、一人になりたいっていうか染岡クンと離れたかっただけなんだ」
僕がにっこり笑ってそう言うと、染岡クンの口があんぐり開く。
その顔も可愛いって思ってしまう僕ははっきり言って病気だ。
恋の病っていうお医者様にも治せない有名な不治の病。


「はあっ!?てめぇ、喧嘩売ってんのか!?」

「違うよ。
染岡クンと一緒にいるのが辛かっただけ。
…ねぇ染岡クン、染岡クンはなんで僕と一緒にいてくれるの?」

拒絶されて、それでも傍にいてくれる染岡クン。
染岡クンが僕に恋心なんて持ってないって百も承知の上で。
あの拒絶を見た後では、どんな答えが返ってきても怖くない。
僕をどう思っているのか。
僕は染岡クンらしい責任感だと思ってた。
でも基山クンは少し違うかもって言っていた。
本当はどうなのか。
それは染岡クン本人だけが知っていて、
ただ、それだけが知りたかった。


「おい、お前、俺と一緒に居るの嫌なのか?」
でも、染岡クンは怒りの引いた顔で逆にそんなことを訊いてくる。

「ううん、嫌じゃないよ。
ただ、僕はあんな事しちゃったから、一緒にいるのが辛かったんだ。
…好き、だからこそ、辛いんだよ」
僕はもう恋心を隠すことはしなかった。
隠す必要なんてもう無い。

僕は染岡クンを見つめてそう言った。


僕がそう言うと染岡クンの顔がくしゃって綻んだ。
驚いたことに、嬉しいって感じに、くしゃって。
でもすぐ元のへの字の口に戻してそっぽを向いてしまう。

そうして染岡クンはそっぽを向いたまま昨日何回もしたみたいに僕の頭を撫でた。


「…おう。俺もそうだ。
…好き、だから、ショックだった。
お前がそんな風に俺を見るなんて、な。
思ってもみなかった事だったから余計な。

でも、俺はあんな事があってもお前の事嫌にはなんねぇぜ。
もう怖くもねぇ。
だからお前ももう気にすんなって」

『好き』か・・・。
染岡クンの『好き』は僕と同じ意味じゃない。
でも、それでも好きって言ってもらえたのは嬉しかった。
嫌にならないって言葉も嬉しかった。
怖くないって言葉も嬉しかった。
ただ『お前ももう気にすんな』って言葉だけが寂しかった。


染岡クンの拒絶が凄く辛かったくせに、
自分の恋心を無かったことにされるのは嫌なんて、
僕はなんて勝手なんだろう。


「…ねぇ、染岡クン。
もし、また僕が我慢出来なくなったらどうする?
このままずっと僕と一緒にいたら、あんな事がまたあるかもしれないんだよ?」
欲張りな僕は、気付いたらそう口にしていた。
こんな怖がらせるような事言って、染岡クンが離れていったら嫌なくせに馬鹿な僕。


「何言ってんだ。
心配しなくても俺が二度とあんなことさせねぇって」
染岡クンが僕の方を見て笑う。


…そんなの。
そんなこと染岡クンに出来る訳ない。
今だって出来ることなら君を今すぐ僕のものにしたいのに。


染岡クンは歪んだ顔の僕を見てがしがしと頭を掻く。

――困った時の染岡クンの癖。

ああ、僕は染岡クンを困らせてばっかりだ。

染岡クンはもう一度俯く僕の頭に手を置く。


「まあよ、もし万が一、また我慢できなくなるような事があったらよ。
そんときゃ、あれだ。
俺のせいだからな。

…覚悟、決めてやるよ」

「え!?」
僕はびっくりして顔を上げる。
そこには見慣れたへの字口の染岡クン。
照れてわざとぶっきら棒になってる染岡クンがいた。


「本当は嫌なんだぜ?
嫌に決まってるだろ?

でもよ、お前がまた我慢できなくなるなんて事があったとしたら、
それは俺がちゃんとしてなかったってことだ。

だからよ、責任取ってやる。
大人しくお前に食われてやっから、痛くないように一思いにやってくれ」


もう。
もう、もう、もう。


「染岡クンっ!」
僕は思いっきり染岡クンに抱きつく。


もういいや。
今の言葉だけで十分。
染岡クンの『好き』が僕と同じじゃなくても、もういいや。
染岡クンが僕の恋心を見て見ぬふりしてても、もういいや。
次はもう拒絶されないって分かっただけで、僕はもう十分。


「こら離れろって!もう午後の練習の時間だろ!?」
真っ赤な染岡クンは抱きついた僕を引き剥がす。
そのまま不機嫌そうに部屋を出て行こうとする。
ドアの所まで行くと、染岡クンが一度だけ僕を振り返る。


「そうだ。
お前の質問、何で俺がお前と一緒にいるかだったよな?

…偶々に決まってんだろっ」


ああ、なんて可愛い僕の染岡クン。


 

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