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〜インターミッション:吹雪SIDE〜
「ごめん、僕ちょっと」
昼食後、いつものように皆でそのまま談笑している輪を一人離れる。
「便所か?」
でも、僕が席を立つと隣の染岡クンが目敏く声を掛けてくる。
・・・はあ。
「違うよ。何か疲れちゃっただけ。
午後の練習までちょっと休んでくる」
僕がそう言うと染岡クンは心配そうに席を立つ。
「おい、大丈夫かよ。
まだ慣れてねぇんだから無理すんな。
熱ねぇか熱」
本当に心配そうな顔で僕のおでこに手を伸ばしてくる。
・・・はあ。
本日もう何十回目かの溜息が出る。
僕は染岡クンの手を避ける。
「熱なんて無いよ。
疲れただけだから心配しないで」
「でもよ、お前昨日の夜から全然元気無いじゃねぇか。
本当に大丈夫か?どっか痛ぇとかねぇか?」
「本当に大丈夫だって」
――元気が無いのは誰のせいだと思ってるんだ。
僕は思わず昨日の夜のことを思い出してしまいそうになって慌てて首を振る。
「少し寝たいから一人にしといて」
僕がそう言うと染岡クンは口をへの字にして押し黙る。
もっと言いたそうな顔はしているけど、これ以上の追求は諦めてくれたみたいだ。
僕はこれ幸いと食堂を後にする。
今の僕には必要以上に僕に構ってくる染岡クンと一緒にいることが何よりも辛かった。
「どうしたの?
てっきり喜んでると思ったのに」
食堂を出て、一人になった途端にすぐ溜息を付いた僕の肩を誰かが叩いた。
びくっとして振り向くと、そこにいたのは基山クン。
染岡クンじゃなくて少しほっとする。
「ちょっとね…」
僕は言葉を濁す。
人の気持ちに敏い基山クンならこれだけで、僕の気持ちを察してくれるはず。
…染岡クンとは違って。
「じゃあ、俺の部屋行こうか。
ここじゃ話し難いことなんでしょ?」
「???」
でもこの日の基山クンは少し違った。
僕は一人になりたいのに、そんな風に部屋に誘ってくる。
基山クンらしくないなって驚きで
え?って顔をしている僕を見て、基山クンは少し笑う。
「今の君、一人じゃ抱えきれないって顔してるよ。
それに俺もそんな顔してる君を放っておけないしね」
…ああ、そうか。
基山クンは本当に人の気持ちを察するのが上手なんだ。
僕が自分でも気付いてない気持ちに気付くくらい。
いくら前から覚悟していたとはいえ、
実際目の当たりにしてしまうとそんな覚悟なんて紙くず同然でしかなかった。
一人では抱えきれない程、心が砕けてしまった。
――叫び声を上げて僕を拒絶する染岡クンの前では。
自分の気持ちを自覚してしまった僕は、世界が反転したみたいに急に足元が覚束なくなってしまった。
基山クンはそんな僕を支えて自分の部屋に連れて来てくれた。
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