10



戻ってきた吹雪は当然の様に俺が着替えさせようとするのを嫌がった。
まあ、無理矢理着替えさせたが。

もじもじしているからトイレに連れて行ったら今までで一番嫌がられた。
まあ、服を少しずらしてやってすぐトイレから出たら、少し安心したみたいだったが。


全てが済んで食堂に行くと、少し遅れただけで、
昨日みたいに全員の食事が済んでいるってこともなくてほっとする。
朝食のメニューは納豆、味噌汁、鮭にご飯で
納豆をかき混ぜる事も出来ない吹雪に、
仕方ないから「あーん」をしたら凄い嫌がられた上、
周囲が物凄い顔で俺達を見てきた。

ひそひそと
「染岡が…、あの染岡が…」
「似合わない…キモイ」
って聞こえてくるのがムカつく。


お前らは知らないから呑気にそんなこと言えるけどなぁ、こっちは命が懸かってるんだよ!
って大声で言いてぇ。

でも、言わない。
吹雪の名誉に関わることだからな。


俺がぐっと色々堪えて、もう一度「あ〜ん」をすると木野が慌てて奥からやってくる。

「ごめんね、今食べやすいように作り直してくるから」
そう言うと吹雪の食事を奥に持っていくと、すぐに鮭おにぎりへと形を変えた食事が戻ってくる。
やっと食事が始まる。

「木野、悪ぃけどこれから毎日頼むわ」
俺が頭を下げると木野は任せてって顔で頷いた。
これで餌のバックアップは完璧だ。

俺は吹雪の食事を確認してから自分の食事に箸を付ける。


「お前、昨日の賭けの話、忘れてないだろうな」

「えっ、あれ本当にやるつもり?」
吹雪がおにぎりを食べながら吃驚して俺を見る。

「おう、当たり前だ。
ちなみに昨日の夜佐久間に聞いたらお前の方が天然だってよ。
覚悟しとけよ」
でも吹雪は俺をむしろ残念な子供を見るような目で見てくる。

「染岡クン、悪いことは言わないから止めておいた方がいいよ。
絶対さっきの『あ〜ん』で染岡クンが天然だってバレたよ」

げ!
そうだった。
くっそ〜、さっきのアレは仕方無かったんだ。
でもそれを皆に言うのは俺の男気が許せねぇ。
ぐぉ〜、でもそれだと俺が皆からこのへんにゃりおっとり野郎より天然だってことになる。

俺が眉を寄せて悩みまくっていると、吹雪がくすっと笑う。
今日初めての(あの迷惑な笑顔は無かったことにした)笑顔だった。

「いいよ、僕ってどこでも寝れるから拘りないし。
染岡クンの勝ちってことで先に場所決めていいよ」

その言葉に俺は随分悩んでしまう。
はっきり言って勝ちを譲ってもらうなんて死んでも嫌だ。
でも、確かに吹雪は繊細そうに見えて、どこでもすぐ寝れる。
それに反して俺はどちらかというと枕が変わると中々寝付けない。
寝る場所は先に決めたい。

俺は暫くどうしたもんかと考えた後に、折衷案を思いつく。

「じゃあ、賭けは無しってことでどうだ?
俺もお前もこのチームきっての常識人ってことで。
だから俺の勝ちとかそういう部分は抜きで、お前の先に決めていいって言葉だけ貰っとく」
俺がそう言うと、吹雪はやっぱりにこっと笑う。

その笑顔は朝見た笑顔とやけに似ているように感じたが、
まあそれはたぶん俺の気のせいだろう。
だって、吹雪はこの後、俺にこう言い放ったんだから。


「染岡クンって本当に負けず嫌いだよね。
負けたくないんだったら今度からはそもそも僕と勝負しない方がいいよ」


 

prev next




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -