裏



「風丸っ!!」


厳重な警備を掻い潜って、やっと見つけた行き止まりにあるその部屋。
一歩入ると紫色に照らされた薄暗い部屋に、ポツンと置かれた大きな大きなベッド。
そしてその上に探していた懐かしい人物が蹲っているのが見える。


「…?」

風丸は声に反応して、体を起き上がらせると、廊下の明かりが逆光になってよく見えないのか眩しそうに目を細める。

「皆!!来てくれたのかっ!」

声の主が染岡で、入院中のはずの皆の姿も揃っているのが識別できると風丸は、皆の方へと向かおうとする。
だが、すぐジャリンと鈍い音が響く。


「ぐっ」

苦しそうに蹲る風丸に、皆の顔が強張る。
首に鎖が繋がれている・・・。
風丸が拘束されているのを目の当たりにした皆は顔色を変えて風丸に走りよった。


「風丸っ」

染岡が一歩、その部屋に踏み入れば皆も後に続いてその部屋へと足を踏み入れる。
それが、もう戻れない一歩とは知らずに…。



傍に寄ると、大きな丸いベッドの上で風丸は蹲って苦しそうに荒い息をしていた。
真紅のベッドマットレスの濃い赤の上に、夜空のような紺色の浴衣を着た風丸は、
近づいてきた皆に気付いて顔を上げる。
紫の微かな光に照らされたその首に、戒めの為の細い鎖が光る。


「頼む、これを外してくれっ…」

苦しそうなその懇願に皆は慌てて鎖の元を探す。
それは壁にめり込んだ太いフックに掛けられ、鍵が無ければ簡単に外せそうに無い。
皆が手分けして、その鍵を探そうとした瞬間、苦しそうに悶えていた風丸の小さな声が聞こえる。


「それじゃない…っ。
これ、こっち外してぇ…」

体を起こし、風丸が胸元を肌蹴させる。
その日焼けもしない秘められた箇所には、緩い刺激を送りつづける淫靡な小さな機械がまるで刻印のように張り付いていた。


「っんだ、これっ!?」

「んんっ」

染岡が乱暴にそれを外せば、風丸の口から淫らに色づいた吐息が漏れる。


「こっちもぉ…」

風丸がぺたんと座り込んでいた足を片方だけ上げると、浴衣の裾が少しだけ捲れる。
そこから微かな振動音とどぎつい色のコードが覗く。


「そんなん自分で外せるだろっ!?」

その意味するところを理解した染岡は顔を真っ赤にして風丸から飛びのく。


「自分で外すと、はぁっ、お仕置きされちゃうっ」

息も絶え絶えにそう言う風丸に、その場にいる全員がやっと異変に気付く。
自分が知っている風丸とは明らかに様子が違うこと。
そして、風丸にはこの場から逃げるつもりが全くないことに。


「うわ〜んっ、風丸さんが変になってます〜」

幼い少林が、その変化を理解しきれずついに泣き出してしまう。

「泣くなっ!
そんなん見りゃ分かるっ!!」

親しいチームメイトのあられもない姿に十分気が立っている染岡は少林に怒鳴りつけた。
空気は悪化する一方だ。
鎖で繋がれている風丸から目を逸らし、逃げるように壁際に皆で固まる。


「どうする?
どうしよう、染岡!?」

動揺した半田が染岡の腕に縋り付く。


「あいつを助ける為にここに来たんだ。
置いてける訳ねぇだろっ」

怒鳴る染岡だって何も良い考えなんてあるわけじゃない。

明らかに様子のおかしい風丸と、壁に繋がれた鎖。
ここから離れ、日常に戻れば風丸は元に戻るかもしれない。
でも鎖が取れない限り、風丸を連れて行くことはできない。
あの様子だと風丸の協力は仰げない。
このベッドしか無い部屋に鍵があるとも思えない。
八方塞がりだった。


「どうすりゃいいんだっ!」

染岡がドンと強く壁に拳を叩き付ける。
誰も何も言わず、ただ少林の啜り泣く声だけが響く。


「染岡さん」

そんな中、おずおずと宍戸が染岡に声を掛ける。

「俺、病院からここに連れて来られる時に何かの役に立つかもしれないと思って、これ…」

そう言ってそのアフロの中から取り出される一対のフォークとナイフ。


「時間かかるかもしれないですけど、これであの鎖か首輪、切れないですかね?」

宍戸がそう言い出すと、少林もひっくひっくと泣きながらも、その髪を解く。


「お、俺も、これ、護身用のが使えると思います」

そう言って差し出された、髪を括っていた紐は細いワイヤーが編みこまれたものだった。


「お前はスケバン刑事かっ」

思わず出た染岡の的確なツッコミも、世代的に誰も理解してくれず当然のようにスルーされた。
なお何故そんなことを染岡が知っていたかについては誰も疑問に思わないところが染岡の哀れを一層誘う。


「ボクも色々持ってきてるよ」


気まずい顔をしている染岡にマックスがそう言いながら帽子の中に手を入れる。
まず取り出したのがカッターナイフ、次に出てきたのがとんかちに、何故かヨーヨーに簪まで出てくる。
ヨーヨーを見た瞬間、また染岡の脳裏に先程と同じツッコミが浮かぶが、ぐっと胸の奥に仕舞い込む。
それから全世代型の「お前の帽子は四次元ポ○ットか」というツッコミをすげきだったかと密かに反省した染岡が物悲しい。


「俺も…」

そう言って影野は髪に隠れた耳の上に挿してあった待ち針を二本取り出す。


「ごめん染岡〜。
俺、頭から何も出ないよ〜」

メンバーの頭から次々出てくる武器に、混乱した半田がまた染岡の腕に縋り付く。


「それが普通だっ!」

坊主頭の染岡の頭からも当然何か出てくるわけがない。
縋り付いた半田を振りほどき、目の前に並んだ獲物を眺める。


「よしっ、何時間かかっても風丸を助け出してやるぜ!!」

フォークを握り締め染岡が言えば、皆も希望を湛えた顔で道具を握りしめる。
こうして風丸救出作戦が決行されることになったのだった。


 

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