#5染岡



「一之瀬、土門、ちょっと来てくれ」

次の日の部活終了後、グラウンドから部室に戻る皆の中で鬼道はさりげなく両名の名を呼んだ。
そして我関せずと円堂の後ろに並んで何食わぬ顔で歩いている豪炎寺のユニフォームをきゅっと掴む。


「豪炎寺、お前もだ!」




残りの部員が全員部室の中へと入っていくのを確認してから鬼道は三人に向き直る。


「今日、半田が休みのようだが、何か聞いているか?」

昨日の今日で学校を休んだ半田に、鬼道は危機感を募らせていた。
何も知らない、何もなかったと半田は言ってくれたものの、土門と一之瀬の話では相当無理をしているのは確実だ。
ショックの原因なんて心当たりが多すぎて、確定する気にもなれない。
一之瀬と土門にもバレてしまった事を考えると、半田にあそこまでする必要も無かったと鬼道には苦い思いばかりだ。


「…いや、何も知らん」

「俺もー」

だが、そういう繊細な心を持ち合わせているのは鬼道だけらしい。
豪炎寺と一之瀬からは心ここにあらずな返事が返ってくる。


「昨日の様子もあるし、ちょっと心配だよねー。
どうする?様子見に行く?」

まともな返事が返ってきたのは土門だけだった。
だというのに鬼道の眉間は爪楊枝が挟めそうな程深く皺が刻まれた。

――半田の事は確かに心配だ。
だがッ!コイツらに狙われている円堂の事はもーっと心配なんだッ!!


鬼道は明らかにそわそわしている豪炎寺と一之瀬を睨み付ける。
危険人物その1その2だ。

その1(豪炎寺修也)は真面目くさった顔をしているが、心の中では
「攫って逃げる、拉致って逃げる、円堂と二人で愛の逃避行に行かなくては。
円堂を独り占めするにはそれしかない。
そうだ、無人島に逃げるというのはどうだろうか。
そこで二人だけの国を作ろう。
サッカーが出来るぐらい子供を作って、家族でサッカーをして一日中過ごすんだ。
今から11人子供を生むとして、一人2年で計算しても円堂は36歳か…。
大人の魅力溢れる素敵な熟女になっているに違いない。
む、そうだ相手チームも必要だな。
そこから更に11人か…、うん、夢が膨らむな」
とか危険極まりない事を考えているに違いない。

それに対してその2(一之瀬一哉)はそこまで危険思想を膨らませはしないものの並外れた恥知らずな上に実行力がある。
その2の事だからきっと
「鬼道の家に監禁状態って酷いよね。
あの二人で円堂を独占してるって卑怯だよ。
円堂だって本当は自分の家に帰りたいって思ってるに決まってる。
そうだ!あの二人が油断してる隙に円堂の家に帰るってどうかな!?
俺、こっちに家無いし、円堂のお母さんなら快く泊めてくれるはず!
わーお、親公認でヤりまくりだー!!
もしかしたら円堂のお母さんもさせてくれるかもしれない!!
わーお、親娘どんぶりー!!日本の珍味ー!!
おーっぱい!おーっぱい!おーっぱい!!」
とか不埒な事を考えているに違いない。
(あくまで鬼道さんの推測です)
少なくとも円堂を独占しようと算段を練っているのは間違いない。
放置する事なんて恐ろしくて出来ない。

だが!と鬼道はギリリと歯噛みする。


半田の事も心配なのは確かだ。
土門の言うとおり様子を見に行った方がいいだろう。
ここは役に立ちそうにない二人は兎も角、土門と協力して事に当たった方がいい。
だが、半田と何も無かった事にすると約束した以上、他の誰かに任す事はせず自分で見舞いに行くべきだと鬼道は思っている。
しかし、では土門にここに残ってもらって円堂の事を任せるというのも心配だった。
なんといっても土門(雷門一のテクニシャン)は最も危険人物といっても過言ではないからだった。
土門ならその1その2の暴走を防ぐ事は出来るかもしれない。
でも!
最警戒危険人物が暴走しないとも言い切れない。
そしてここで最も重要なのが、
「円堂が最警戒危険人物(土門飛鳥)の誘いを断らない可能性が高い」
という危険性だった。
最警戒危険人物が
「ねえまもちゃん、今日は俺んち泊まりに来てよ。
いーっぱい気持ちくしてあげるからさ」
と言うだけで人のいい円堂はのこのこと付いて行ってしまうかもしれないのだ。
更に
「ねえまもちゃん、俺とのエッチが一番イイって言ってたよね?
だったらさ、もう俺以外とエッチな事するの止めなよ。俺との時間が減っちゃうだけだよ?」
とか入れ知恵されたらそれだけでお終いだと鬼道は危惧していた。
どう考えても土門が最警戒人物である事は疑いようがない。
鬼道は険しい顔で、どうすべきが最善か暫く悩んだ。
腕を組み、難関校の入試問題を解くレベルで真剣に苦悩した挙句、鬼道はケータイを懐から取り出した。


「そうだな…、電話してみるか」


なんで鬼道が部活中もケータをイ持ち歩いていたのかというツッコミは無しの方向でお願いします。


 

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