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円堂はきゅっと唇を引き結ぶ。
土門のわざと軽い調子で伝えられた告白の中に潜む真剣さは、
円堂本人には痛いくらい伝わっていた。
「なあ、付き合うってどういうことすればいいんだ?」
暫く土門の事を真剣に見詰めた円堂の口から出たのは、そんな質問だった。
この二日間で円堂は自分が男女のそういう関係に全く疎い事を身をもって知った。
だからこその質問。
自分の少ない知識では世間一般とずれがあるかもしれないからという誠意の表れだった。
「特別なことはしなくていいよ。いつもどおりのまもちゃんで」
返ってきた答えはごく簡単なもの。
それは多くは望まない土門の心からの本心。
「ただ、出来たらエッチなことは俺としかしないでくれたら嬉しいな。
それから…。
それからエッチな事してない時も俺でまもちゃんの中いっぱいにして。
いつでも俺の事だけ考えて、俺が隣に居ない時も俺の事想ってて欲しい」
決して多くは望まないけれど、それが欲張りな本心。
行動を束縛するつもりも、
円堂の事を独占するつもりもない。
・・・ただ、俺の事を誰よりも好きになって欲しい。
土門の望みはただそれだけ。
そのたった一つの願いさえ叶えば、他は何もいらない。
その土門の言葉に円堂は腕を組んで悩みだす。
「俺は…」
「ねー、土門。さっきの結構真剣だったでしょ?」
もうすっかり夜の帳に包まれた帰り道で一之瀬が土門の腕を小突く。
「そりゃ、そーよ。
円堂がチャラい告白にOKしてくれる訳ないっしょ?」
土門は頭の後ろで腕を組んで空を見上げる。
空にはもう月が随分高い位置に昇っている。
「真剣に告っても駄目だったくせに」
「ひどっ!振られて傷心の俺を慰めてくれてもいいじゃん」
暫く悩んだ末に円堂が出した答えは『NO』。
真剣な顔した円堂はこう切り出した。
「エッチな事するのは土門とだけって約束はしてもいい。
土門とするのが一番気持ち良かったし」
ぱあっと顔を明るくさせた土門に、だが円堂はこう続けた。
「でも、土門でいつでもいっぱいってのは無理だ。
土門のことしか考えないってのも。
だってさ、土門の事ばっか考えてたら、誰かが苦しんでるのに気付けないだろ?
俺はチームの皆がいつでも楽しくサッカー出来るようにしたいんだ。
だからいつでも皆の事を考えてたい。
ごめんな、土門」
そう言って頭を下げる円堂の頭に土門は軽く手を乗せた。
陽花戸中でサッカーさえも拒絶して悩んだ円堂の事を知っているからこそ、もう微笑んで受け入れるしかない。
「いいよ。
だってその皆ってのに当然俺も含まれるんでしょ?」
そう言って土門は汗まみれの円堂の髪をくしゃくしゃとかき混ぜてから帰路についたのだった。
「慰めてもらうなら俺じゃなくて円堂本人にしてもらえば?」
一之瀬はそう言うと改めてにこにこしだす。
「円堂って可愛いし、ヤらしてくれるし、本当最高だよね。
しかもおっぱい大きいし!」
円堂を円堂と思わぬその一之瀬の発言は、清々しいまでにサッカーとHを区別したものだった。
一之瀬にとっては女になっても円堂は気の合う仲間で、興味深いライバルでしかない。
だが、Hしてる時は円堂の顔しているだけのただの女の子だ。
円堂だという意識もあまりない。
「明日も『まもちゃん』とヤれるかな?
もしヤれそうだったら明日だけは土門に先譲るよ」
だからこそ無茶なことも平気で出来てしまう一之瀬に、土門はこっそり溜息を吐く。
――はぁっ、コイツと同列かぁ…。
・・・でも。
ま、いっか。円堂が望んだことだし。
無理矢理気持ちを切り替え、土門はもう一度空を見上げる。
煌々と光っているように見える月も、本当は太陽の光を反射させているだけ。
土門のように、円堂という太陽の光を欲している人間は沢山いる。
それこそ月のように無くなったら輝けないという人間さえも。
それを円堂本人も心のどこかで気付いているのかもしれない。
そんな太陽を胸に抱え込んだら、焼け死んでもおかしくない。
太陽は空にあるから暖かいのかもしれない。
「あーぁ、それでも辛いなぁ。
まもちゃんとのセックス占有権だけでも約束してくりゃ良かった」
「無理無理。そんなのあの二人が許さないって」
「あー、かもな」
「それより、俺に潮の吹かせ方教えてよ。
土門があんなにH上手いなんて俺知らなかったな」
「へへ〜、まあね。俺、女の子が感じてるのを見るのが好きだから」
幼馴染の二人は夜道を明るく話しながら歩いていく。
失恋の悲しみをどこかへ追いやるように。
そんな二人を月は優しく照らしていた。
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