洗脳後日談



エイリア石が全て砕けて皆が元に戻ったとき、皆と共に許された俺はそれでも抱えきれない罪悪感が残った。

無理やり選ばれた人間の中に一人だけ自分から意図的に選んだ人間が紛れ込んでいることを、俺は誰にも言えなかった。
罪悪感を忘れる為に選んだ道はより大きな罪悪感を俺にもたらしただけだった。


自然と皆の輪を離れ、遠巻きに皆を眺めることが多くなった。
そんな時、同じように輪から離れ、それを見つめている人間がいることに気づいた。

・・・影野だ。

影野の視線の先にはいつもマックスがいて、
俺はどうしても病室で見た二人のキスシーンを思い出してしまう。
病室でのことは皆忘れてしまっていて、あのときのことはエイリア石をまだ持ってなかった俺だけが覚えていた。


俺と同じように同性に恋をして、しかもそれを乗り越えて付き合っている二人に興味がわくのを抑えられない。


「なあ、マックスと付き合っているのか?」

練習後の片付けの時に、周りに誰もいないのを見計らって、ついに影野に声をかける。
影野は急に動きを止めると、髪から出ている部分全てを赤く染て手を振る。


「つ、付き合ってるなんて、そんな・・・」

「でも、好きなんだろ?」


俺が重ねて聞くと、少し俯き小さな声で逆に聞いてくる。


「・・・なんで分かったの?」

肯定の意味を含んだその質問。
俺はまさか病室で俺の、というか皆の目の前でキスしてたなんて言えず、笑って誤魔化した。


「見てればわかるよ」

俺がそう言うと、影野は長い溜息を吐いた。


「・・・俺ってそんな分かりやすいかな?」

「いや、そんなことはないと思うが」


影野の目はいつも隠れていて、病室のことが無ければ誰を見ているかなんて分からなかった。
それにこう言ってはなんだが、ほとんどの人間は影野をそもそも注目して見てるなんて滅多にない。
自分の影の薄さを気に病んでる影野がそんな心配をしているなんて思ってもいなかった。


「マックスにもね、それでバレたんだ。
俺がマックスを好きって。
マックスに『いつも見てるでしょ?』って聞かれた時は心臓が止まるかと思った」


ああ、マックスに言われたのか。
敏感なマックスなら自分に注がれた視線に気づかないという事はないのかもしれない。
それにしても・・・。
もし俺が円堂に同じことを聞かれたら、どうしていいか分からない。
そのときの影野の気持ちが痛いほど察せられて、胸が痛かった。


「俺、そう聞かれた時、真っ白になって咄嗟に誤魔化すこともできなかったんだ。
そしたら、マックスが・・・」

「そうしたら?」


懐かしむように、照れたように言葉を切った影野に先を促す。


「もっと見てもいいよ、って。
見られるの嫌じゃないから、って」


影野の口から紡がれたのは、そんな些細なことだった。


「それだけ?」

二人のキスシーンを見ている俺は拍子抜けしてしまう。
正直、俺に隠しているだけで、もっと何かあると思った。


「うん、これだけ」

「他にも何かあるんだろ?」

「ううん、何もないよ」

「じゃあ、付き合ってないじゃないか!」

俺は思わず声が大きくなってしまう。
はっとなって辺りを見渡すが、誰もこちらに注意を払う者はいない。


「だから付き合ってないってば」

影野は苦笑いを浮かべている。


「俺がマックスを好きなのは確かだけど、
マックスが俺のことどう思ってるかは分からないし。
ただ・・・」

そこで言葉を切ると、影野は俺に微笑んだ。


「俺の好意を笑わず、嫌がらず、許してくれた。
それだけで、俺は最高に幸せなんだ」


その笑顔は迷いが無く、俺は圧倒されて言葉を失う。


「・・・そう。そうだな」

やっと俺がそれだけ言うと、影野は誰にも言わないでと言い残して行ってしまう。


「許される・・・か」

俺はその背に小さく呟く。


ダークエンペラーズとして円堂と戦ったとき、アイツは俺の思いをボロボロになりながら受け止め、許してくれた。
無視することだって、そのまま倒れてしまうことだってできたのに、何度だって立ち上がってくれた。
それはたぶん俺達のことを真剣に考えてくれてる円堂だからできたこと。
きっと誰にでもできることなんかじゃない。
そう思うと、俺にも許されることの喜びが沸いてくる。
それだけで少し心が軽くなる。


そして、幸せそうに笑った影野のことを思う。

あいつはマックスがどう思っているかわからないなんて言ってたけど、ちゃんとマックスもお前のことが好きだぞ。
エイリア石の力で、したいことを抑制できなくなった時、マックスが一番先にしたことはお前とキスすることだったんだから。


もうすぐ恋が叶うであろう二人を思い、俺は心の中で笑いかけた。


 END

 

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