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シャワー室に入り、半田をゆっくりと床に降ろしてやる。
そして少し熱めの湯で半田の体を丁寧に流してやる。
その間、半田は何も言葉を発しない。
自分の体を守るように膝を抱え、言葉もなく震えていた。

「半田」
粗方綺麗に洗い流した鬼道が半田の名前を呼ぶ。

「足を広げてくれないか?
其処も綺麗に流したい」

でも、半田は何も返事をしない。
膝に顔を俯かせたまま、微動だにしない。
その様子に鬼道は小さく溜息をつくと、半田の足を掴んで左右に広げようとした。

「いやっ!!」

その瞬間、ずっと無反応だった半田が鬼道の手を振り払う。

「俺に触るなっ!!」

絞りだすように叫んだその声は、掠れていてやけに甲高く、決して明瞭な声では無い。
でもそれでも、いやだからこそ、はっきりとした拒絶が伝わる。


「半田…」

その痛々しいまでの姿に鬼道が眉を寄せる。
半田に手を延ばしかけて、途中でその手を止める。
そして姿勢を正すと、自分のゴーグルを外しだす。


「全て、お前の望むとおりに」

がたがたと小刻みに自分の膝を抱えて震えながらも、
目だけは怯えたように鬼道から離さない半田の前に鬼道が跪く。
隠すもののない瞳でまっすぐに半田を見つめる。
それはさながら忠誠を誓う騎士の如くに。


「お前が今日の事を黙して話さないでくれるならば、
俺はお前の望みを全て叶えよう」

「え?」

予想外の鬼道の行動に少しだけ半田の目に怯え以外の感情が灯る。

「お前が望むなら、今日のことは何も無かったことにする。
お前は部室で何も見なかったし、何もしなかった。
勿論お前の体は無垢なままだ。
何も気に病むことも無い。
だって何も無かったのだから。

反対にお前が望むなら、これからもお前の欲を存分に満たしてやる。
お前が望むだけ、何時でも、幾らでも。

お前が俺達との約束を守ってくれる限り、
お前がこれ以上壊れないように俺が守る」

真摯なその態度は嘘偽り無くて、強い衝撃で空っぽな半田の心にも沁み込んでいく。
それはまるで染みのように。

薄く斑に染まった半田の心に気付かず、鬼道の言葉は続いていく。


「ただそれも、お前が約束を遵守している間だけだ。
お前が俺から円堂を奪うような行為を少しでもしたら、容赦はしない。
お前の言葉など誰も信用しなくなるぐらい、お前の事を粉々に壊してやる」

ゴーグルの無い、まっさらな瞳が、それも嘘では無いと告げている。
また半田の心が斑に染まる。

「えん、どぉ?」

目の焦点を無くした半田がぽつりと呟く。

「ああ、円堂だ」

「えんどぉ、か…」

目に力を無くした半田が何を考えているのか、流石の鬼道にも予測できない。
小さく円堂の名前を何度も呟く半田に、ちゃんと自分の願いが伝わってるかどうかも分からない。
焦れた鬼道は懇願するように半田の肩を掴んで言い募る。

「頼む、半田!
俺から円堂を奪わないでくれ…っ!!
アイツの好意が恋では無いことぐらい承知している。
それでももうアイツを手放すことなんて出来そうに無いんだ…っ」

鬼道の手が半田の肩に食い込む。
それでも半田は肩に痛みなんて感じ無かった。
それ以上に心が大きく軋んだ。


・・・全部無かったことにしたい。


ただ、半田はぼんやりとそう思った。

自分が円堂とセックスしたことも、
気付かない内に欲に溺れ、男相手に自分から強請ったことも、
そしてそれさえ気持ち良いと思ったことも、

・・・今目の前で円堂を想って、自分に懇願する鬼道さえ、

全部、全部消えて無くなればいいのに――。


「俺、知らない。
お前が何言ってるかさっぱり分かんない。
俺はただ忘れ物を取りに来て、ついでにシャワー浴びてるだけ。
シャワー浴びたら、もう帰る」

半田が何の感情も浮かんでいない顔でそう言うと、鬼道の顔が嬉しそうに綻ぶ。
…半田はそれさえ無かったことにした。


「送るか?」

洗浄を自ら再開した半田に、鬼道が労わるように声を掛ける。

「…なんで?そんなことしたこと無いじゃん。変な鬼道」


でも、返ってきたのは心底不思議そうな半田の声だった。


 

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