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恐怖でへたり込んでしまった俺に目もくれず、研崎は染岡の方へ向かう。


「染岡君が一番進行が早いようですね。
彼は特に練習熱心で、わが社に頻繁に来ていたからなあ」

感心したように染岡の顔を撫でるように触る。

「仲間思いの頑張りやさんだ」

染岡の顔を撫でたまま俺に向かって言う。
染岡から手を離し、身を起こすとマックス達の方を向く。
そして周囲の異変を全く気にしていない彼らを満足そうに眺めた。


「ふふ、彼らも、もうすぐですね。
わが社で大量にエイリア石のパワーを浴び続けた染岡君たちには敵わないが、四六時中ネックレスを着けていれば、早かれ遅かれ彼らもいずれ生まれ変わる」

「う、生まれ変わるってなんだ!?」

俺は未だ座り込んだまま、なんとか研崎に訊ねる。
虚勢。
俺はすっかりこの男に飲まれてしまっていた。


「私の可愛いハイソルジャーにですよ。
エイリア石を持つとね、最初は闘争心や凶暴性が強くなるんですよ」

あ、あれもエイリア石の影響だったのか。
すぐイライラと怒るようになった皆を思い出す。
悪夢みたいだった医師暴行の話し合いを俺は苦々しく思い出していた。


「それから、罪悪感や倫理観がなくなり、自分の感情を抑えられなくなる。
次第に他人を気にせず、自分のしたいことだけをするようになる。
医者を襲おうとした染岡君たちや、今の松野君たちみたいにね。

今の染岡君達は最終段階なんですよ。
エイリア石が新しい肉体に書き換えているのを脳がついていけず、ぼうっとしているように見えるんです。
ここまでくれば、新しく生まれ変わるのはもうすぐなんですよ。
人類の限界を超えたハイソルジャーにね」

そう説明すると笑顔を浮かべ、俺の方に近づいてくる。


「な、なんで俺にそんなことを話すんだ。
俺が今皆のエイリア石を壊せば、お前の計画は全部駄目になるっていうのに!!」

近づいてくる研崎から逃げるようにベッドの上をじりじりと這いずって移動する。
どんと壁にぶつかり、もうこれ以上逃げられないと知った俺は目を瞑る。
だが、秘密を知った俺に危害を加えるどころか研崎は優しく俺の頬を撫でる。


「貴方はそんなことしませんよ。
誰よりも力を求め、あの誰よりもまっすぐな少年の隣で、手段を問わない自分を恥じていた貴方はね」

研崎の言葉に俺は目を見開く。
暴かれた俺の気持ちは、誰にも口にした事がなかった。
これからも。
そして、これから未来永劫、ずっと。


「な、なんでそれを・・・」

「ふふ、見てればわかりますよ。
大した怪我じゃないのに、自分の弱さが彼に伝染するのを恐れて自らバスを降りたのも、
自分よりも他の仲間よりも貴方にとっては彼の方が大切だってこともね」

俺の頬を優しく撫でるその手は相変わらずとても冷たいのに、なんだかとても心地良く感じる。
俺は男の手に許しを感じていた。


「そして貴方はそんな自分に強い罪悪感を抱いてる」

再度顔の前に出されたエイリア石は誘う様に鈍い光を放つ。


「でもね、この石さえあればそんな苦しみから解放されるんですよ。
あれだけ欲しがっていた誰にも負けない力も簡単に得られるし、彼を人知れず想う罪悪感も無くなる」

研崎は急に部屋のテレビのリモコンを掴む。
いきなり点いたテレビには画面いっぱいに見慣れた円堂の笑顔が写る。
豪炎寺や、俺の知らない浅黒い男と抱き合って喜んでいる。


「ほら、君が御執心の彼はもう、君のことなんて忘れてしまったようだよ。
強い力を持つエースストライカーや、新しい仲間に夢中のようだ」

画面越しの円堂はやけに遠くて、俺の知っている円堂とは違ってみえる。
ぼうっと食い入るように懐かしいのに初めて見る円堂を眺めていると、研崎の言葉がやけに響いて聞こえる。


「ねえ、風丸君。君は充分苦しんだ。
もう、その苦しみから解放されてもいいんじゃないかな?」

俺はゆっくりと研崎の方を向く。

にっこりと微笑む研崎。
そしてその手にある眩く光るエイリア石。


俺は恐る恐るエイリア石に手を伸ばす。
俺の背後からは、円堂がセーブを決めたと告げる実況の声が響いた。
振り返りたいとは、もう思わなかった。


 END

 

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