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「鍵を閉め忘れていたか…。
俺らしくも無い。
円堂を手に入れて、柄にも無く少し浮かれていたらしい」

その気まずい沈黙から、一番早く行動を起こしたのは鬼道だった。
自嘲気味に呟くと、未だ何が起きているのか理解できていない半田の方へと近づく。

一歩一歩近づいてくる鬼道から半田は目が離せない。
さっきまではただのチームメイトだったのに、今では鬼道が何をしたいか分からない。
自分の前で鬼道が立ち止まっただけで、半田は自分の中から恐怖が涌き起こってくるのを
感じていた。
そこから更に自分の方へと伸びてくる鬼道の手に、半田が怯えたように体を縮込ませる。


「早くドアを閉めろ。…騒ぎになると困る」
鬼道の言葉と共に閉められるドア。

半田は鬼道の目的が自分ではなかったことに安堵した。
だが、すぐドアが閉められ外の喧騒が遮られたことで堪らなく不安になってくる。
がちゃりと鍵の閉まる音さえ自分を閉じ込める嫌なものに聞こえる。

この閉じられた狭い空間には、
女みたいに胸のある円堂、それを当然のように愛撫する二人のチームメイト、
それに自分しか居ないのだ。
そう思うと半田は急に息苦しくなってくる。
自分以外の三人が得体の知れないモンスターに思えて仕方ない。


「半田」

半田はその呼び声にゆっくりとドアの方へと向いていた強張った体を、振り返らせる。

「半田、黙っててゴメンな。
俺、サッカーの大会に出れなくなると思って、皆に女になっちゃったこと黙ってたんだ。
ビックリしただろ?」
円堂が怯えた半田を労わるように声を掛ける。

「あ、ああ」
半田は円堂の言葉に頷きながらも、半歩後ずさる。

あんな衝撃的瞬間を見られたっていうのに、いつもと変わらない円堂の声。
未だ隠す様子のない大きな胸と、
円堂の背後から守るように裸の肩に手を置いている豪炎寺、
どちらも奇異なものなのに変わらない円堂の声と態度。
そのせいでどんなに言葉の内容は労わりの言葉であろうと、一般人である半田の中からは恐怖を拭い去ることが出来ない。


「落ち着け、半田」
いきなり肩を叩かれ、半田がびくりと飛び上がる。
前にいる二人に目を奪われていて、背後から近づく鬼道に気付かなかったのだ。

「き、鬼道」

「円堂が急に女になったなんて事態をすぐには受け入れられないのは分かる。
ただな騒ぎになるのだけは困るんだ。
お前だって円堂が試合に出れなくなるのは嫌だろう?」

まるで幼子に言い聞かせるように一言一言をゆっくりと鬼道が話す。
おそらく今の状況を理解できずに怯えてさえいる半田にも分かるように話し、
半田にも答え易いようイエスかノーかの質問をする。
顔には落ち着かせる為の笑みさえ浮かべていた。

「う、…うん」

それが例え自分達に都合の良い様に誘導する為のものだとしても、
その優しい物言いに半田は少し安心する。
巧妙に半田の意識が「円堂が二人掛りで蹂躙されていた」事から、
「円堂が女になった」事に集中させるものだとしても。

いつもと様子は変わっても、ここにいるのは自分のよく知っているチームメイト達で、
さっきだって円堂もいつもどおりだったじゃないか。
その円堂が困っているなら助けたい。
助けるのが当たり前だ。

案の定、半田は先程衝撃を受けたのは円堂が女になったことだけじゃないってことも忘れてそう思っていた。


鬼道はそんな半田の心の移り変わりを敏感に感じたのか、案外簡単に収まりそうな状況に安堵の表情を浮かべる。

「じゃあ、半田もこの事を誰にも話さないでいてくれるか?
問題を起こしたくないんだ」

「半田、頼むよ!
俺、やっぱり大会に出て強ぇー奴らと戦いたいんだ」
鬼道の言葉に、円堂も半田に手を合わせて頼んでくる。
意図せず円堂が自分の思惑に乗ってくれて助かる。

「半田はただ『この事』を誰にも言わないでいてくれるだけでいい」
鬼道が後押しする様に、半田の肩に手を置き顔を覗き込む。

――そう、半田は誰にも言わないでいてくれるだけでいい。
円堂が女になったことも、そして円堂がもう既に俺達のものだってことも。

騒がず責めず、ただ誰にも言わず黙認すること。
それが鬼道の半田に望む唯一のことだった。


「う、…うん。分かった。
俺、誰にもこの事言わない。約束する」
固い表情のままながら、確固たる口調でそう半田が言う。
まっすぐ鬼道を見つめるその顔は信じるに値する。

「そうか、…ありがとう半田」
鬼道は半田の肩から手を下ろす。

――部内で脅迫などしたくないからな。

結構怖い事を考えていた鬼道は、穏便に事が済んでほっとしていた。


でも、それを台無しにする行動をする人物がいた。
鬼道にさえ行動が読めない円堂その人だ。


「半田!ありがとなっ!!」
鬼道が半田から離れた瞬間に、今度は円堂が半田に抱きつく。
ぷるんとした大きな胸が半田に押し付けられる。

「俺、半田が秘密にしてくれるって約束してくれて、すっげー嬉しい!
サンキュー半田!!」
きらきらした笑顔を半田に向けると、半田の肩に手を回したまま鬼道の方へと顔だけを向ける。

「なあ、これで半田も秘密の仲間だよな。
じゃあ俺、今から半田としてもいい?
さっき途中で止めちゃったからむずむずしちゃっててさ」


 

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