12
「大丈夫か?円堂」
胸を激しく上下させながら、空ろな瞳で息をしている円堂の頭を撫でながら鬼道が訊ねる。
「…んあっ、鬼道?」
「ああ」
漸く焦点の合った瞳で自分を見つめてくれた円堂に鬼道は微笑む。
「終わったのか?」
まだ二人とも自分の中にいるとはいえ、
先程までの嵐のような時間から比べると随分と穏やかな時間に対して、円堂が訊ねてくる。
その問いに鬼道が答えようとした瞬間、豪炎寺が反対に円堂から抜け出ながら質問を重ねる。
「…円堂、むずむずするのは治まったか?」
体の熱を抑えてやる。
むずむずするのを治してやる。
それは二人が行為の途中で円堂に成り行きとはいえ約束していたことだった。
豪炎寺の問いに円堂が少しだけ首を傾げる。
「んー、全然」
「…っ!!」
「だって、さっきお腹ん中で何か出しただろ?
あれ、熱くって余計むずむずさせるんだもん。
俺、さっきの、もっと欲しい!」
鬼道が目を見張ったその円堂の答えに、豪炎寺はにっこりと目を細める。
「じゃあ、まだ終わりじゃないな。
円堂のむずむずが治まるまで続けないと意味が無い。
…今度は俺が中で出してやるから安心しろ」
「やった!サンキュー、豪炎寺!」
いい子いい子をするように円堂の頭を撫でる豪炎寺と、それに抱きつく円堂。
二人の常識を些か逸脱しているのにも拘らず息の合った会話に鬼道は、頭を痛める。
ただ自分達の恋情の為に、何も知らない円堂に間違った性知識を植えつけてしまったみたいで心が痛む。
でも、そんな罪悪感に苛まれる鬼道を余所に、豪炎寺は先程まで着けていたコンドームを外すと、
今度は生身で円堂に前から覆いかぶさっている。
「たっぷりさっきのヤツ、お前の中で出してやるからな。
しっかり孕むんだぞ、円堂」
「ハラムってなんだ?」
「俺の想いをお前がしっかり受け止めたっていう証拠のことだ」
「そっか!
俺はそんな証拠なんて無くたって全然大丈夫だけど、お前が欲しいんだったら、俺、頑張るな!」
「ああ、頼んだぞ円堂」
「任しとけ!」
二人の会話に鬼道の頭痛はさらに激しさを増す。
豪炎寺の目を見たら、すぐ分かる。
――コイツは本気でヤる。
何も分からない円堂に既成事実を作って、他の人が気付く前に自分だけのものにするつもりだ。
本当は熱く激しいこの男は、円堂を手に入れる為ならそれぐらいのことは平気でやる。
鬼道が眉を寄せていると、円堂がこっちを向いて呼んでくる。
「おーい、鬼道はもういいのか?」
もういいのか?
・・・答えなんて決まっている。
「いや、まだだ」
この至宝の存在を一度だけで諦めるなんて自分には出来るはずが無い。
豪炎寺がそれだけの執念を見せるなら、自分はそれ以上のもので、それを阻止してやる。
それに、豪炎寺の暴走を止め、円堂が不必要に傷つくのを防がなければならない。
それを出来るのは自分しかいないはずだ。
鬼道は決意も新たに、
円堂の前で不敵に自分に笑い掛けてくる、
最高の仲間で、最強のライバルに笑い返した。
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