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あの日、夕方に帰ってきた染岡達は久しぶりのサッカーが嬉しかったようで上機嫌で帰ってきた。
ただ、マックスが
「あの会社、なんかおかしいよ。
働いている人に全然会わなかったし、警備が異常なほど厳重だし。
普通の会社に侵入者撃退用の警備ロボットなんてあるわけないよ」
と言っていたのだけが少し気にかかった。


だがそれから毎日のように男の会社へサッカーをしに行くようになると、皆はすっかり大人しくなった。
あの凶暴性はだんだんとなりを潜め、病室ではベッドでゆっくりと過ごすことが多くなった。
反対に、最初の一日だけで男の会社に行かなくなったマックスや影野はイライラが抑えられないようで今でもすぐ声を荒げた。

俺はそれでも皆が落ち着いてくれたことに胸を撫で下ろしていた。



そんなある日、怪我が未だ治らない俺だけが検診に行って病室に戻ってくると、中では異様な光景が繰り広げられていた。


マックスと影野がベッドでキスを交わしていたのだ。


「何やってんだ、こんなとこで!!」

俺は慌てて影野に覆い被さっているマックスの肩を掴む。

「はあ?邪魔しないでよ。
これからがいいところなのに」

マックスは俺を一瞥してそう吐き捨てると、俺を無視してキスを続ける。
俺は初めて間近で見る他人のキスシーンに顔が赤くなる。
マックスが影野の腕を引きベッドに引き込んだ時、ぼうっと見ていた自分に気づいた。
病室のベッドと言えど、ベッドの上に縺れるように倒れこんだ二人を見て、俺はあらぬ想像をしてしまった。
俺は慌てて隣のベッドの半田に助けを求める。


「は、半田。マックスを止めるのを手伝ってくれ!」

だが、半田はぼうっと宙を見つめたまま俺の声に中々反応しない。
もう一度声をかけると、やっと俺とマックス達の方を見る。


「・・・ああ、いいんじゃないの」

絡み合いキスを続けるマックス達に驚くこともせず、また宙を向いてしまう。

「半田・・・?」

俺は半田の反応の薄さに薄気味悪いものを感じてしまう。
そういえば、こんなに大きな声を出しているのに誰一人反応する者がいないのはおかしい。
辺りを見渡すと誰もが半田と同じようにぼうっと宙を見つめている。
誰一人騒いでいる俺を見ようとしない。


「おい、宍戸?!少林!?
しっかりしろ染岡!!」

名前を呼んだ一瞬だけ俺の方を見るが、すぐまたぼうっとしてしまう。
おかしい……!
明らかに尋常じゃない皆の様子に、俺は怖くなってマックス達に駆け寄る。
まだ言葉が通じて反応があるだけ二人の方が正常だった。


「おい、来てくれ。
皆が、皆が変なんだ!!」

俺は必死にマックスの肩を揺するが、俺の手は無常にも跳ね除けられてしまう。

「邪魔しないでって言ったよね」

俺を睨むマックスの目は冷たく、今は影野とのキス以外は全部邪魔だと言わんばかりだった。

・・・変だ。
人目を全く気にせず行為に及ぶマックス達も、何にも反応しない染岡達も。
俺は恐怖で耳を塞ぎ目を瞑り意味を成さない声をあげる。
何で、何で、何で、何で、何で、何で。
いつの間に!?
少し前まで皆普通に笑って、話して、たまには怒って、何事も無く生活していたはずなのに。
それこそ落ち込み塞ぎ込みがちな俺が五月蝿いと思うぐらい、皆は穏やかに和やかに暮らしていたのに。
そう言えば最近は病室がやけに静かだった。
 い つ か ら ?
こうなったのはいつからだ!?
何で、何で、何で、何で、何で、何で。


「どうしたんですか?」

いきなり肩を叩かれ、俺は恐怖で小さい叫び声をあげる。

「け、研崎さん」

やっと、普通の人に会えて俺はほっとする。

「あ、あいつらが…皆が、変なんです!
なんにも反応しないし、人の目を気にせずに、あ、あんなこと・・・」

俺は研崎さんの腕に縋りながら皆を指差す。
俺の指の先には宙を見つめる皆と、未だ固く抱きしめあってるマックス達がいる。
それは異常な状況なはずなのに、研崎さんは俺の髪を撫でながら何でもないように微笑を浮かべる。


「大丈夫ですよ、風丸君。
生まれ変わる前の避けられない状態なだけです」

何故この男はこの状況を目の当たりにして笑っていられるのだろう。
男は初めて会ったときから変わらずいつもこの笑顔だ。
だが、今はその笑顔がやけに忌むべきものに感じる。
俺はゆっくりと一歩一歩後ずさる。
・・・こいつだ。
こいつが来てから皆は変になった。
それは勘でしかなかったが、俺は確信していた。


「あ、あんた、皆に何をしたんだ!?」

後ずさりをした俺は思わず栗松のベッドに座り込んでしまう。
栗松の上に座り込んでしまったのに、栗松はふっと俺を見たきり何の反応も返さない。

「私は何もしていませんよ。
全部彼らが望んだこと。
私はただ、その手助けをしただけのことです。
・・・このエイリア石を渡してね」

男が取り出したその俺が受け取るはずだったネックレスは、禍々しい紫の光を放っていた。


 

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