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「っん、はっ…きどぉ…んんっ」
ぴちゃぴちゃと絡まる舌の合間に、喘ぎ声混じりで呼ばれる鬼道の名前。

――まさかこんな風に自分の名前を呼ばれるなんて…。

名前を呼ばれた瞬間、そんな思いが確かに鬼道の頭に中を過ぎった。
ただそれは本当に小さく頭の奥の奥の方で、それよりも大部分を占める興奮の前では無いようなものだった。

――もっと、もっと名前を呼んで欲しい。
あの円堂の口腔を犯しているのは自分だと、円堂の口から言葉にして欲しい。

「んっ、きどぉ…息できなっ、んんっ」
円堂の舌を舌でなぞると弾んだ息と共に自分の名前が吐き出される。
やっと自分の名前を呼んで貰えて、これからって時に鬼道の腕を邪魔するようにツンツン突いてくる輩がいる。

いつの間にか円堂の背後に廻った豪炎寺だ。
唇を合わせたまま鬼道が豪炎寺を睨んでも、つんつんと突く指は止まらない。

「円堂…」
それなのに、豪炎寺は片方の手で鬼道を突いたまま円堂に甘く囁くとその首筋へと顔を寄せる。
訝しそうに眉を寄せた鬼道と、何かを訴えている豪炎寺の目が合う。

――なんだ?

舌を絡めながら豪炎寺の意図を読み取ろうとする鬼道。
そしてすぐツンツン突いている指にある一定のリズムがあることに気付く。

「あっ」
思わず声が漏れる。

「あぁっ…えんどぉ」
慌てて円堂にバレないように喘ぎ声のフリをする。

――モールス信号か!

豪炎寺の指はある規則に則ってリズムを刻む。
ツーツーツーツー、トントンツーツー…。
こ、の、ま、ま、ヤ、る、ぞ。

もう理性など舌を絡めた時点で飛んでいった鬼道の返事なんて既に決まっていた。
円堂の首に舌を這わしている豪炎寺の太腿に円堂にバレないように指をやる。
ツーツートン、ツーツー、トントンツーツー…。
りょ、う、か、い。

もう一度豪炎寺と鬼道が目を合わせる。

――いくぞ!

試合開始の笛が鳴った。



たっぷりと円堂の口の中を堪能した鬼道が漸く唇を離す。
そしてそのまま自分のゴーグルに手をやると邪魔だとばかりに投げ捨てる。

「はっ、はっ…きどぉ?」
突然の鬼道の行動に肩で息をしていた円堂が蕩けた目を鬼道に向ける。

「円堂…」
そんな円堂の頬を愛おしそうに鬼道が触れる。
ゴーグルの無い、そのままの瞳がまっすぐに円堂を見つめる。

「円堂。お前、俺達の事が好きか?」

「なんだよ急に。そんなの当たり前だろ!?」
そう円堂にとってそれは当たり前のことだった。
それなのに今、そのままの鬼道がまっすぐ自分を見つめて改まってこんな風に聞いてきたせいか、何故だか少し恥ずかしい。
自分の首のところにある豪炎寺の顔のせいかもしれない。

「円堂、俺達もお前のことが好きだ」

「ひゃあっ」
円堂の返事に豪炎寺が後ろから抱かかえるように耳元で答える。
急に耳に豪炎寺の吐息が掛かって、円堂の口からは驚きの声がでる。
そう円堂は自分の口から出たのは「驚きの声」だと思っていた。
実際はそうじゃなくても。
それに二人の捕獲者は気付いていた。
試合の流れはこっちに傾いている・・・そう確信していた。


「円堂、お前が好きだ」
鬼道が真剣な面持ちで頬を撫でる。
頬に手を触れながら、指で唇に触れてくる。

「…はぁっ」
さっきまで熱い口付けを交わしていたそこは火照って敏感になっていて、
指で唇を割られると思わず声が漏れる。


「好きだ、円堂。お前に触れたい」
今度は背後にいる豪炎寺が耳元で囁いてくる。
体がくっついているから豪炎寺の体の熱が円堂に伝わっていく。

「ふぁんっ、やっ、何してんだ!?」
豪炎寺はそのまま円堂の耳をぺろりと舐める。
初めての経験に円堂が思わず声を上げる。

「好きだ、円堂」
どんどん鬼道が近づいてくる。

「好きだ」
豪炎寺の声がどんどん弾んでいく。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
そして何故かサッカーをしている最中みたいに弾んでいく自分の息。

円堂は混乱していた。
特に何かされているわけではないのに、何故自分の息はこんなにも弾んでしまうんだろう?

鬼道は自分のほっぺを撫でているだけ。
豪炎寺は自分の耳元で内緒話みたいに話しているだけ。
なのに自分はこんなにも呼吸が乱れて体が熱い。

頭がぼうっとするし、なんでこの部屋は空気が甘く感じるんだろう?
豪炎寺に触れている部分からじわじわと体中に何かが広がっていく。
これで鬼道に前から抱きしめられてしまったら自分の中はその甘く痺れる何かでいっぱいになってしまう。

「円堂」

「円堂」
二人の声でまたさらにそれがじわっと自分の中に溢れていく。
もう何も考えられない。


「駄目か…?円堂」
顔の目の前で鬼道がわざと目的語を省いた最終確認を囁く。
円堂は何が駄目なのか、分かってなどいない。
もう考える余裕も無い。
でも…。

自分を挟むように好きだと囁く二人が、
いつも自分を支えてくれる二人が、
やりたいことが駄目なはずが無い。


「…駄目じゃない」
その呟きを合図に二人は円堂にむしゃぶりついた。


 

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