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片方の手で肩を、片方の手で腰を抱き寄せ、体を密着させる。

「んあっ」
急に抱き寄せられ、円堂が驚きの声を上げる。
その口にお構い無しに豪炎寺が自分の唇を重ねる。

隙だらけなのをいいことに、にゅるんと最初から一方的に蹂躙する為に舌を侵入させる。


「ンンッ…、んっ、…ちょっ、ああん」
最初は戸惑いの表情で目を見開いていた円堂の目が徐々に、徐々にとろ〜んと焦点がはっきりしなくなっていく。


「んふぁっ…、ぁっ…、…はぁっ…」
最初はちゃんと自分の足で立っていたのに、徐々に、徐々に、豪炎寺の支え無しでは立っていられなくなっていく。


唇が離れたと同時にずるずると円堂の腰がくだけていく。
その場に座り込み、とろ〜んとした目ではあはあと口をだらしなく開けている様はいつもの様子が微塵も無い。


「はぁっ…、はぁっ、…ん、はっ、…何、今の?」

「…キスだ。
王子のキスで元に戻るかと思ったんだが」
さらりと言い除ける豪炎寺の肩を鬼道が叩く。

「やりすぎだ、馬鹿」

床に落ちている円堂のジャージを拾うと、今だぼうっと荒い息をしている円堂のところへ向かう。

「ほら、大丈夫か?」
もう一度ジャージを肩に掛け、出来るだけ優しい声を出す。
混乱している円堂に付け入るような真似をするなんて、
友人として恥ずべき行為だと鬼道は思っていた。

・・・至近距離で円堂を見るまでは。

ぺたんと座った円堂がジャージを肩に掛けてくれた鬼道を見上げる。

うっ。

その姿に鬼道が息を飲む。

潤んだ瞳。
紅く色づき、濡れた唇。
微かに聞こえてくる弾んだ息。
…全身から牝の匂いがする。


「ねえ、鬼道もキスしてよ」

「ぶっ!」

しかも止めとばかりにこんな事を言い出す。


「元に戻れるかもしれないんだろ?
マントしてるし、鬼道の方が王子様っぽい」
潤んだ瞳で言う様は、内容と相まって誘っている様にしか聞こえないが、
本人は至極真面目に言っていると分かる分だけ始末に負えない。

本能と理性の狭間で揺れる鬼道は、助けを求めようと後ろを振り返る。
でも、完璧本能側に振り切れてしまった豪炎寺はいつものドヤ顔で頷くだけ。


――もう、どうにでもなれっ!

ちゅ。

えいっと、軽く触れるだけのキスを円堂に施し、
すぐ体を起こそうとすると、途中で何かに引っ掛かる。
…円堂がマントの裾を掴んでいる。


「豪炎寺のと違う。…一緒のがいい」

「〜〜〜〜」

それでなくとももう理性という崖の地面はぼろぼろと地崩れを起こしている。
この状況でディープキスなんてしたら、確実に暴走列車が二台になってしまう。
その暴走列車は鬼道がこの世で一番大切に思っている友人を踏みにじり、ボロボロになるまで止まれないことも分かっている。
そう理性で理解しているからこそ、鬼道は躊躇してしまう。
でも本能でこんなチャンスは二度とないと理解しているからこそ、迷ってしまう。

心の底から迷っているから気づかない。
…下から円堂の顔が迫っていることに。



鬼道の理性を完全に壊したのは円堂だった。
理性の崖っぷちに立っていた鬼道の背を押したのは、
気づいたら首に回っていた手と、
にゅるんと入ってきた舌、
そして至近距離で見た円堂の閉じられた瞳の淵を彩るきらきらした涙だった。


 

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