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「えっ、えっ、俺の体、女になってんの!?」
円堂がパンパンとそこだけでなく、全身を叩きながら困惑の声を上げる。

「ああ、原因は分からないがそのようだ」
鬼道の声に豪炎寺が重々しく頷く。

「そっか、俺、女になっちゃったのか」
円堂がかみ締める様に俯き呟く。
かける言葉も無く、二人がその姿を見つめていると、
ぽつ、ぽつと円堂の顔から涙が零れて、床に落ちて砕ける。

「円堂!」

――あの、あの円堂が泣いている。

いつでも明るくて、周囲に前向きな力を与える円堂が泣いている。
責任感の塊で、キャプテンの鏡のような円堂が泣いている。

「あれ、あれ、おかしいな。
泣くつもりなんてないのに勝手に涙が…」
手の甲で子供のように涙を拭い、気丈にもそう言う姿は健気で、堪らない気持ちにさせる。

「悪い、女になったら公式の大会に出れないんだって思ったら、なんか悲しくなってきて。
可笑しいよな、俺。
塔子に
『サッカーやるのに男でも女でも関係ない』って言ってたのに、
いざ自分が女になったらこんな風に泣くなんて。
…でも、自分でも止められないんだ。
なんで、女ってこんなに涙もろいんだろっ」

次々溢れてくる涙を手の甲で拭いながらも、自分達に懸命に笑いかけてくる姿はやはりいつもの円堂で。
だからこそ余計そのか弱さが際立ってみえる。


「可笑しくなんかないさ。
ここには俺達しかいない。泣いたって構わない」
頭に手を置き、鬼道がそう言えば、涙に濡れた瞳を向けて、マントをきゅっと掴んでくる。

「それでも嫌なら、ほら、
これで俺達にもお前が泣いてるって見えない」
肩を抱き寄せ、豪炎寺がそう言えば、涙の跡の残る顔を胸に押し付けてくる。

「ふえ〜ん」
円堂は、
鬼道のマントを掴み、後頭部を鬼道に撫でられながら
豪炎寺に抱きしめられたまま声を上げて暫くの間泣き続けた。


「あ、ありがと、なっ。
もう、平気、だから」
暫くしてそれでも嗚咽の残る声で体を離しながら、円堂が言う。
思いっきり泣いたところを見られた恥ずかしさからか、少しはにかんだ笑顔を二人に向ける。

「さんきゅっ
鬼道に、豪炎寺も」
一人ずつに向けた笑顔は、泣いていたせいで目が赤く、
しかもはにかんだその表情は初めてみる顔で、
その笑顔を向けられた二人は心臓にメガトンヘッド級の衝撃を受ける。


――か、可愛い。

二人が固まるくらい今の円堂は可愛かった。
否、元々円堂は可愛い。
男でも劣情を抱くくらいに。

でも、皆のキャプテンで、
サッカー以外の事にめっきり疎い円堂にそんな想いを抱いても実行に移すような不届き者は居なかった。
少なくとも雷門中サッカー部には。
暗黙の不文律で円堂は完全なる聖域の中にいる存在だった。
お互いがお互いを監視し合って円堂は守られてきた。

だが、円堂であって円堂でない今の円堂はそんなことを吹き飛ばす破壊力があった。

泣いているのに健気に自分に笑う顔だけでも理性を吹き飛ばすには十分なのに、
少し下を見れば服が肌蹴ていて顔と色の違う肌が見えるのだ。
さらに下なんて恐れ多くて見ることさえできない。


鬼道は眩暈で目がチカチカする。
完全に理性が飛びそうになって、慌てて円堂のずり落ちたジャージを肩に戻して言う。

「円堂、礼などいいから早く…「円堂!」

でも「早く服を着ろ」と続くはずだった言葉は最後まで紡ぐことなく遮られる。
わざと被せるように発せられた豪炎寺の言葉によって。

はっとして豪炎寺を見る。

――完璧に欲情してる時の顔だ。

なんで鬼道が豪炎寺のそんな顔を知っているかは一先ず置いておくとして…。

頭を撫でていただけの鬼道と違って、半裸の円堂を抱きしめていた豪炎寺は既にいっぱいいっぱいだった。
先程の笑顔は崖っぷち豪炎寺の背を押すには十分すぎる程だった。


「おいっ」

鬼道が豪炎寺を制するように円堂の前に手を出す。
でも、豪炎寺はその手を払いのけ、
戻されたジャージの内側から円堂の肩に手を置く。
その反動でジャージがぱさりと床に落ちる。


「円堂、試したいことがあるんだ」
ぱっと見は至極真面目な顔をして豪炎寺が言う。
でも、完全に目は血走っている。

「なんだ?」
疑うことを知らない円堂が隠す物の無くなったメロンちゃんをぷるんと震わせて首を傾げる。


「元に戻る方法と言えば、大昔からこれに決まっている」

――王子様からのキスだ。


 

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