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「え、えーっと…」
余りの予想外の出来事に、鬼道が眉間に手をやり困った様に言葉を探す。
「・・・」
眉間に皺を寄せ、腕を組む豪炎寺と目が合う。
――メロンだな。
――うむ、メロンだ。
試合中ばりのアイコンタクトを交わした二人は胸が腫れたと言い張る円堂の姿を改めて見る。
客観的に見て、今目の前にいる円堂は普段の印象とは異なって見える。
普段の円堂は可愛らしい顔と裏腹に、意外と骨太で筋肉のしっかりついたがっちりとした体型をしている。
それが今は頬だけでなく全身がぷにぷにしているように見える。
眉もいささか細くなっているし、体のラインもやけに丸みを帯びている。
何より声がいつもより数段高く華やかだ。
「おい、一つ確認したいのだが、お前胸が腫れただけか?」
「は!?」
鬼道の質問の意図が分からず、円堂がすっとんきょうな声を上げる。
「いや、下はちゃんとあるのかと訊いてるんだ」
「下?」
「ああ、排泄器官だ」
「???」
首を傾げる姿はいつもの二割り増し可愛らしく、破壊力抜群なのだが、
如何せん暈して言う部位が伝わらなくて困ってしまう。
「円堂、ちんちんのことだ」
見かねた豪炎寺が腕を組んだままフォローの言葉を吐く。
「ああ、ちんちんね。
えー、あるに決まってんじゃん。
ちんちんが急に無くなる病気なんて聞いたことないぞ」
男性の胸が急にメロン乳になる病気だって聞いたことないのに、
円堂は呑気なのか剛毅なのか分からないが笑顔で答える。
「確認はしたのか?」
円堂の性格を十分熟知している鬼道は重ねて訊ねる。
「いや、してないけど?」
「確認しろ」
けろりと答える円堂にぎろりとゴーグルを光らせて鬼道が言い放つ。
意外と紙神経の鬼道には体の異変を全て確認しきっていない円堂の神経が理解できない。
「分かったよ、ちょっと待ってくれ」
鬼道の真剣な様子に、円堂も顔を引き締める。
真剣さには真剣に応えるのは円堂の美点の一つだった。
ごそごそとジャージの下に手を入れる。
「あ、あれ!?」
目の前で、背を向けることもせず確認すると思って無かった二人の前で、
円堂が戸惑いの声を上げる。
――やっぱりな。
その戸惑いの声に二人は内心予想通りの円堂の反応に落胆の溜息をつく。
だが、次の瞬間に円堂の思い掛けない行動に二人は円堂とは違った意味で驚きの声を上げる。
「無い!無い!俺のちんちんどこにも無いぞ!?」
手で触るだけでは確信が持てなかったのか、
がばっとジャージを下着ごと下に下ろして、ぱんぱんとそこを叩きながら円堂が叫ぶ。
「!!」
二人の前に、成熟した胸と裏腹に毛が無く割れ目がくっきりと見える幼いそこが露になる。
思わず二人は目を逸らす。
円堂の幼い顔に、成熟したメリハリボディー、そしてつるつるの性器。
それは妖しい程にアンバランスで、見てはいけないものを見てしまった気分にさせる。
「くそ、何故胸だけあんなに大きいんだ。
普通円堂のキャラならぺったんこであるべきだ」
鬼道が思わず見当違いの苛立ちの声を上げる。
「円堂のお袋さんの血だな」
円堂の母親と面識のある豪炎寺が眉を寄せて答える。
「なあ、お前達何話してんだよ!?
これ、なんの病気か分かったのか?」
混乱している自分を余所に、二人して全然違う話をしている二人に円堂が珍しく苛立った声を掛ける。
「いや、何の病気かは知らんが、お前の身に起こったことは理解した」
そこで鬼道は一旦言葉を切る。
一歩二歩二人で円堂に近付く。
そして鬼道が円堂の肩に手を置いておもむろに口を開く。
「円堂、お前女の体になっているぞ」
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