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「止めるなぁ〜!俺はやるったらやってやるぅ〜!!」

朝の忙しい時間、今日も今朝から食堂の片隅で佐久間が喚いているようです。


この一週間、幼い鬼道に気に入られようとあの手この手で画策し、
その全てが失敗し、その都度不動のことを罵るといった一連の行動を繰り返した佐久間に、ジャパンのメンバーはもうほとんど慣れっこになってしまって基本放置が原則だ。
最早相手にするのは同盟相手の基山と、底なしのお母さん体質風丸ぐらいだ。


「止めるなぁ〜!俺もモヒカンになるんだ〜!」

何かと世話焼きな風丸君は今日も今日とて、バリカン片手に騒ぐ佐久間を後ろから羽交い絞めにして止めている。

「止めろ、佐久間!そんな一時の激情で折角の髪を剃り落としてしまっていいのか!?」

――何故急にモヒカンなんかに…!?

あくまで常識人の風丸君は、いきなり佐久間がモヒカンになるなどと言い出した理由が皆目検討も付かない。
ただ同じ長い髪を持つものとして、佐久間のその艶やかな髪がどれだけの苦労を持って保たれているかは十分熟知していた。
佐久間の長い髪の価値を十分知っていた。


「そうだよ、佐久間君!君にはモヒカンは似合わない!」

傍らに立つ基山が同じように説得する。


――なんで基山はただ立っているだけなんだ…?

必死になって佐久間を一人で羽交い絞めにしている風丸は、ただ立って説得しているだけの基山にそう心の中で愚痴る。

面倒な事は極力しない基山と、苦労性の風丸。
一気に風丸に徒労感が襲ってくる。


――はぁっもう疲れたよ、パトラッシュ…。


風丸が鳴き声しか知らない三軒隣の飼い犬に思いを馳せた瞬間、
佐久間がぐいっと風丸の拘束を逃れる。
そして、思い切りよく自分の頭を刈り上げた…!


「ああっ!」

風丸が自分の雑念を悔いている中、佐久間の髪ははらはらと食堂の床に舞っていく。
そして、真ん中の髪を残した状態に刈り上げると、どうだと言わんばかりのドヤ顔で食堂を見渡す。


「鬼道!俺はやったぞ!!見てくれ!!」

・・・返事が無い。

「鬼道!鬼道!?」

・・・返事が無い。

「きどー!きどーぉ?」

不安そうに辺りを見渡す佐久間に不動が冷たい視線を投げかける。


「アイツならまだ来てねーぞ」

がぁーん。
崩れ落ちる佐久間。

「そんな…っ!鬼道が見ていると思ったからやったのに…っ!
見て無かったら効果半減じゃ無いかっ!」

正しくOrzの体勢になる佐久間に、風丸は慰めようにも何とも言葉が出ない。

「佐久間…」

「これじゃあ、ただの不動ファンみたいじゃないか!
そんなの一瞬も耐えられないっ」

嘆き悲しむ佐久間に不動が激しく舌打ちする。
そりゃ勝手に同じ髪型にした挙句、そんな暴言吐かれたらムカつくよね。


「勿体無いが仕方ない。もう一つ鬘を使うか」

「鬘だったのか!?」

珍しい風丸のツッコミ炸裂!
そりゃあんだけ苦労したんだもん以下ry。

しかし、ずるりと鬘を外すと出てきたのはつるぴかのスキンヘッドだった…。


「エー!?鬘の下は更にハゲ!?」

「なああにいいい!?」

驚きの事態に風丸のみならず佐久間の口からも驚きの声が上がる。
その瞬間ぼんっと弾け飛ぶハゲヅラ。
そしてひらひらと舞う『ドッキリ大成功』の紙。

「ゴメン、佐久間君。
俺も円堂君に好かれたくて…」

ごほごほと咳き込む佐久間に、基山が申し訳なさそうに謝る。
当然円堂の姿も食堂にはまだ見えない。


「ゴメン、ゴメンね佐久間君!まさかこんな寒い空気になるなんてっ!
俺はただ円堂君に笑ってほしかっただけなんだっ!
ただ『なんだよー、ヒロトも結構面白い奴じゃん』って言って欲しかっただけなんだよっ」

「お前の気持ち痛いほど分かるぞおお!」


――この状況、どうすればいいんだ…。

泣きながら謝る基山に、肩を抱き合い一緒になって泣くアフロ佐久間を前に、
ツッコミ技術の低い風丸はただ呆然とするぐらいしか出来なかったのだった。

風丸!とりあえず食堂の掃除だ!!


 

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