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すっかり6歳の円堂、鬼道と仲良くなった気分でいた二人ですが、そう上手くはいかないようです…。
作戦会議を終えて、完璧遅刻の時間に二人は漸く練習に参加する。
「二人を魅了するためにもサッカーの練習は必須だな」
「ふふ、そうだね」
そんな会話を交わしていた二人は、遅れて行ったグラウンドで信じられないものを見てしまうのだった。
そう、もう既に憧れの人を見つけてしまった二人の姿を…。
グランドの隅で、せっせと一人で作業をしている円堂を早速見かけた基山は、すぐさま声を掛けようと手を上げる。
でも、声を掛ける前に円堂は大きな声で他の人を呼んでしまう。
・・・そう、6歳円堂が心の師匠と仰ぐ尊敬の人物を。
「うっしっししー、なあ木暮!落とし穴ってこんぐらい掘ればいいのかぁ?
俺、絶対、あのでかい人が填まってるとこ見たーい!!」
「えー、お前壁山落とす気かよ!?
結構やるじゃん!」
ちびっこ円堂の心の師匠。
…それは悪戯大好き木暮だった。
既に笑い方まで一緒になっている二人の仲良さそうな様子に、
基山が手を振り上げた状態でピシリと凍る。
「えへへ、そうだろ!?俺、結構やるんだー!!」
「アイツ間抜けだから簡単に引っかかるぞ。
落とし穴の上におにぎりでも置いときゃ絶対落ちる。
しかもデカイから中々落とし穴から抜け出せないんだぜ。うっしっししー!」
「うっしっししー!!」
円堂と木暮が顔を見合わせて笑いあう。
まさに悪ガキ二人組。
そう!ちびっこ円堂はこの自分と身長のあまり変わらない、いつでも皆に悪戯を仕掛けているこの面白いおにいさんが親しみやすくその上楽しくって仕方ないようだ。
しかもこの小さいおにいさんはちょこまかと動きまわる動きの派手なサッカーをするから子供心にサッカーがめちゃくちゃ上手いと思ってしまった。
ここに円堂憧れの人として木暮が認定されたのだ!
「え、円堂君…」
基山がへなへなと力なく手を下ろす。
そして再度、基山はグラウンドの片隅でブラックホールと化すのであった…。
一方その頃佐久間は中学生に混じって一緒に練習をしている鬼道を見つけていた。
「鬼道ーvvv」
ハートマークをいっぱい付けて名前を呼びながら走り寄るが、
近づく前に鬼道はどことなく弾んだ声で他の人を呼んでしまう。
・・・そう、6歳鬼道が密かに目標にしている尊敬の人物を。
「すみません!不動さん、もう一度今のプレーを見せてくれませんか!?」
「ああ?…チッ、めんどくせぇな…。
もう一回だけだぞ」
ちびっこ鬼道の密かな目標。
…それはもう一人の司令塔不動だった。
犬猿の仲だった二人が一転して仲良さげに練習している姿に、佐久間が走ってる途中でピシリと凍る。
「今のは味方と交錯して敵を翻弄する時に、自分に目を向けさせる為のプレーですよね?」
「あ?んな当たり前の事わざわざ聞くな。
一度しか言わねぇぞ。
ここで小さく上体を移動させると敵のファウルも誘える。
結構引っかかるからやってみろ」
鬼道と不動が並んで同じ動きをする。
まさに練習熱心な二人。
そう!ちびっこ鬼道はサッカーの上手いこの集団の中でも同じポジションで、しかも今まであまり見たことのないトッリキーなプレーをするこの変な髪形のおにいさんが特に凄いプレイヤーだと思ってしまった。
しかもあまり丁寧に教えてくれないところや、それなのに理に適った事を言うところが影山に似てて格好いいとさえ思ってしまった。
ここに鬼道の憧れの人として不動が認定されたのだ!
「ふっ、不動!コノヤロー!!」
佐久間がぷるぷると拳を振り上げる。
その姿に土方や染岡、綱海、飛鷹といった力自慢の猛者が止めに入る。
「ガキとはしゃべるつもりは無いとか言って格好つけてたくせにぃ〜!!
この寂しがり屋さんがぁ〜!!」
うわぁぁ〜んと泣きながら佐久間が吼える。
基本人の話を聞かないくせに、自分の都合のいい話はちゃっかり聞いてる佐久間。
鬼道に懐かれて実は内心歓んでいる不動をいつまでもいつまでも罵るのであった…。
そう、代表に選ばれるぐらいここにいるメンバーは全員サッカーが上手いんだから、
憧れの人になるにはプラスαが必要だということに今更気付いた二人なのだった。
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