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「なんだってええ!?」

朝早くから食堂の片隅で佐久間の絶叫が響く。


先週同様、今回も風丸と木野が先程不在だった佐久間や不動といった面々に事の経緯を説明している最中だ。
そして鬼道がショックを受けるから影山の事は内密にと伝達する前に、またもや出遅れたと佐久間が騒ぎ出したのだった。


「き、鬼道は何歳になったんだ!?」

佐久間が黙々と食事をしている鬼道を指差しながら風丸をがくがくと揺する。

「止めてええ、6歳よ、6歳!」

風丸の残像が見える程の速さと激しさに、見かねた木野が慌てて答える。

「6歳、か…」

佐久間が6歳との答えに一抹の寂しさを纏って呟く。
勿論脳震盪を起こす寸前だった風丸の事なんて眼中に無い。


今の鬼道は初めて会った時の、記憶の中の鬼道にそっくりだ。

初等部からはクラブ活動に参加できると知り、勇んで行ったサッカーグラウンドに鬼道は居た。
幼等部でのお遊びサッカーでは敵なしだった自分でも手の届かない程完成されたサッカーを軽々とやってのける鬼道に一目で憧れた。

その鬼道にまた再び出会えたと思ったのに…。
でも・・・。


――6歳か…。俺の知らない鬼道だな。


「ぐふ」

「グフ?」

いきなり笑った佐久間に、風丸を助け起こしていたガンヲタ木野が思わず聞き返す。

「いや、何も」

何食わぬ顔で佐久間は平然と否定する。
そう!ナルシストは変顔や、奇声を他人には隠すものです。(あ、一般人もか)


――よぉおおし!三歳の時は結局親交を深めることは出来なかったが今度こそ!!


運良くリセットできた好感度に、佐久間は二度目の決心をするのであった。



「ところでさぁ〜…、あの屍はなんだよ?」

再度邪まな炎を滾らせている佐久間の隣で、不動が気だるげに訊ねる。
顎で指し示した先にはorzってなってる基山の上に昏い闇が渦巻いている。


「ああ、基山か。
6歳になった円堂がまったく基山の事を覚えてなかったせいで朝からずっとあんなだ。
ぶつぶつと『計画が…』とか『せっかく上手くいってたのに…』とか呟くぐらいでほぼブラックホールと化しているから困ってるんだ。
さっき危うく挨拶しただけの木暮が吸い込まれそうになっていた」

風丸が頭を小さく振りながら答える。
まだ頭がくらくらするのか、秀麗な眉がよっている。


「はっ!良かったんじゃねぇ?
アイツぜってぇ円堂を変態に育てる気満々だったじゃねぇか。
早いうちに悪い芽を摘むことが出来て」

興味無さそうでいて、本当は皆に興味津々孤高はいやだようが実は本音の不動さんが、
やっぱりちゃんと観察していたと推測される意見を言い出す。

「そうか?」

全然基山の思惑に気付いていなかった風丸が不動の言葉に首を捻る。
それほど基山の作戦は巧妙で、健全とアウトのぎりぎりラインで上手く留まっていたようだ。
・・・ってか、今回風→円要素は無いようです。


「で、今回のNGワードは影山か。
ッチ!鬼道クンもとことん面倒くせぇ奴だな」

そう憎まれ口を叩いて不動が立ち上がる。

「不動!」

慌てた声を出した風丸に不動がニヤリと笑う。


「安心しなって。
そもそも俺はガキんちょとしゃべるつもりは更々ないからな」


…と不動さんが格好つけて決めてる間、佐久間は考えていた。

――今回は偶々リセット出来たが、次からはこう上手くいくはずがない。
前みたいな失敗は繰り返せない…!


佐久間はそう決意すると、人の話を全然聞かずに立ち上がる。
そう!佐久間は思ったのです!!
子供が苦手な自分は得意な人の真似をしようと。
真似をして先週失敗したばかりだというのに、そんな決意をしてしまったのだ。
早くも残念な予感しかしない中、
さっきあれ程危険だと言われた基山に佐久間はずんずん近づいていく。


「基山」

佐久間が普通に基山に話掛ける中、背後では「いやああ、死んでしまうわ佐久間君!」等叫んで止めようとする秋や、
それを「危ない木野!お前まで巻き込まれるぞ!!」と羽交い絞めで止める風丸が居る。

迷惑なので本当に人の話は聞きましょう。


「ざぐま゛ぐん゛」

泣き過ぎてすっかり濁声になった基山の声がブラックホールの中から聞こえる。
確かに基山が発生源らしい。


「基山!俺に子供と仲良くなる方法を教えてほしいんだ!!」

佐久間は一切を無視して自分の要求を端的に話す。
その盲目なまでに自分の事しか考えていない姿は、今だけは良い方向へと事態を動かす。


「佐久間君は凄いね…」

基山の呟きが聞こえた途端、ブラックホールがしゅるしゅると収束していく。
すっかり姿を現した基山が佐久間を見つめてぽつりと呟く。


「俺は少し駄目になっただけで落ち込んでしまったのに、
佐久間君はあんなに脈無しなのに、まだ頑張れるんだね…」

「基山…」

人の話を聞かない佐久間はすっかりそのいい話的な雰囲気に染まってしまう。
普通に酷いこと言われてるのにね。


「佐久間君、…一緒に頑張ろうか?
俺もまた円堂君との明るい未来の為に頑張ってみるよ」

基山がすっと佐久間に手を差し出す。

「基山…っ!」

感激した佐久間はその手を喜んで握る。



今、ここに佐久間基山同盟が結ばれた!
イナズマジャパンきっての変態同士がついに手を結ぶことになったのだ…!!


二人の背後で拍手喝采が鳴り響く。
佐久間は同盟締結を皆が祝福してくれていると思ったが、
その拍手は実際にはブラックホールが無くなった喜びの拍手でしかなかった。


 

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