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「えっ!?あの子、鬼道なのか!?」

「シーっ!」

驚きの声を上げた佐久間の口を風丸が慌てて押さえつける。


遅れて食堂にやってきた佐久間と不動(勿論仲良く一緒に来たわけではない)に、
隅っこの方で風丸と秋が代表で説明をしている。

――くっそぉ、ノリ遅れたっ。

佐久間は内心舌打ちをする。
件の子供達はもうすっかりメンバーに溶け込んでいて、既に壁山の頭が定位置になっている。
しかも皆、鬼道に対して「有人」くん呼びが強制されている。
それどころか綱海や染岡なんかは既に「有人」と呼び捨てで呼んでいる。


――うう、今まで「有人」って呼んでたのは、鬼道の親父さんだけだったのに。
二番目に呼ぶのは俺であるはずだったのにぃ!

心の中でいくら地団駄踏んでももう遅い。
自分の低血圧と、
騒ぎとブラッシングではブラッシングを取ってしまう曲げられない美意識が憎い。

――うぉーっ、絶対今から巻き返してやるっ。


佐久間が心の中で、今までのどの試合よりもやる気を出している時、
傍らの不動はどうでも良さげに風丸に問いかけていた。

「なあ、鬼道は分かったけどよぉ。
なんで円堂まで下で呼んでんだよ?気持ちワリィ」

「ああ、円堂な。
アイツ自分の苗字知らないみたいなんだよ」

「はぁ!?」

流石の不動も返ってきた答えに思わず目を見張る。

「名前は?って訊いてもハテナって顔で何も言わないし、
でも自分の事は『まも』って呼んでるから円堂なのは確かなんだろうけど、
俺らが『円堂』って呼んでも反応無いんだよ。
だから自然と『まも』か『守』で呼ぶようになった」

「はっ!想像以上の馬鹿だな」

不動が呆れたように吐き捨てる。
だがそれが紛れも無く事実なのが涙を誘う。

(注:円堂さんの名誉の為に言いますが、自分の苗字を知らない三歳児なんて沢山いると思います!
幼稚園も保育園も行ってなかったら普通だと思います)



二人の幼子は人見知りもあまりなく、特に円堂の意味不明の行動は見てて飽きない。
時間を忘れて騒いでいると、ついに久遠監督が注意にやってくる。

「おいっ、集合時間はとっくに過ぎているぞ。
・・・っ!」

きゅうーん。

騒ぎの中心である壁山の上に居る二人の子供(破壊的に可愛い)を見た瞬間、
久遠監督の胸は高らかに鳴り響く。

そう!教え子の記憶を奪ってわが子にする久遠監督は、マスターランクのロリコンでショタコンだった!!


普段の無表情のまま、目だけをきらきらとさせて二人を見詰める。
背後にふわりと花が舞っているのがほんのり見える。

でも子供二人は、いきなり怒鳴りながら現れてそんな風に自分達をじいっと見詰める髭面で無愛想な親父に怯えきっている。
円堂はその野生の本能で、
鬼道はその生来の類まれな判断能力で、
この親父は危険だと気付いていた。
ふたりとも同時にふるりと震える。


「と、トイレ!」

鬼道が視線から逃げるように、壁山の頭から飛び降りる。
鬼道が春奈の手をぎゅっと握って、トイレに行こうとしているその時、
背後で円堂の「ふぅうーっ」という声と、少し遅れて壁山の「うわああ」という叫び声がする。

「ま、守君、お漏らししたっス〜!!」

哀れ壁山、頭の上から尿を被るという人生でもワースト上位の悲惨な事態に陥る。
勿論壁山にスカトロの趣味は無く、
円堂さんの尿という一部には大変貴重なブツも、ただの迷惑極まりない物でしかない。
ちびっこ円堂さんは壁山に消えないトラウマを刻むことに成功したのだった。


「…染岡クン」

「…おう、なんだ」

「…なんで有人クンはちゃんとトイレに行けるのに、キャプテンは行けないのかなぁ?」

「…だから言うなって」

「でも今何の躊躇も無くキャプテンお漏らししてたよね?
もしかしてまだオムツ外れて無いんじゃないかなぁ」

「…だから言うなよぉ!」

「やっぱりキャプテンは三歳より小さいんだよ!そうじゃなきゃおかしいよ!」

「…言うなあああっ」


食堂の片隅で鬼道と比べて明らかに歩みの遅い円堂を想って、またも染岡が男泣きをするのであった・・・。


 

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