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どさりと洗濯籠を落とした春奈は、他の者など目に入らない様子で、その子供に駆け寄る。


「ねえ名前なんて言うの?」

しゃがみこんで目線を合わせて、赤い瞳の子供に首を傾げる。

「○○有人、三歳です」

はっきりとした口調で名乗ったその子は、不安そうに春奈を見上げる。

「ねえ、ここどこ?はうなは?
ゆうとが居ないとはうなすぐ泣いちゃうんだ。
早くはうなのとこ行かないと」

自分も不安なのに、それを堪えてきょろきょろと周囲を見渡すその子に、春奈はぐっと声を詰まらせる。

「…お兄ちゃんっ」

ぎゅうっとその子を抱き締めると、すくっと立ち上げる。


「皆さん、ちょっとお話したい事があります!
こっちに来て下さい」

そう言うと秋に目配せする。

「ね、お腹空いてない?おねえちゃんとあっちで何か食べよっか」

二人の子供が秋に連れられて食堂に行くのを見届けてから、春奈が重々しく口を開く。


「皆さん、あの子は原因は分かりませんが、たしかに三歳のお兄ちゃんです。
○○は私達の元々の苗字だし、私の事も言ってたから。
お兄ちゃんが小さくなっちゃったのか、過去からきた三歳のお兄ちゃんかは分かりませんが、どちらにせよ皆さんにお願いがあります!」

そこまで一息で言うと、春奈は一旦口篭る。
迷うように目線を下げると、きゅっと口を結ぶ。
そして再度顔を上げた時、春奈は少し泣きそうな顔をしていた。


「お願いします。
今のお兄ちゃんの事を鬼道の名で呼ばないで欲しいんです。
あの子はまだ○○有人で、お父さんとお母さんが死んじゃうことも知らなくて。
もうすぐしたら嫌でも知る事になるんだから、少しでも知らないままでいさせてあげたいんです。
だって私達家族が一緒に居られたのは本当に短い間だけだったから」

最後は少しだけ涙の混じった声だったものの、春奈は気丈に頭を下げる。
一同を重苦しい空気が包む。

ついに春奈から嗚咽が聞こえてきて、一同ごくりと息を飲む。


「うっ、お兄ちゃんが、木暮君より小さくなっちゃうなんてっ。可哀想過ぎるよ」

だぁっと一気に皆脱力。

「おいっ、いくら俺だってなぁ三歳より小さいわけないだろっ!」

木暮と春奈がいちゃいちゃといつもの言い争いを始めた時点で、一同は食堂へと移動を始める。
いつでも見れる二人のいちゃつきよりも、珍しいちっこい円堂、鬼道に興味が行くのは当然だった。


一同が食堂にぞろぞろと入ってきた瞬間、まだ幼い円堂の大きな声が響く。

「あー、アンパンマンだー!」

だだっと駆け寄るのは、勿論壁山のところ。

「お、俺の事っスか!?」

戸惑う壁山を無視してちびっこ円堂は壁山によじ登る。

「アンパンマン!そりゃ、びゅーして!」

はっ!?

ちびっこ円堂の得意げな顔に一同?マークが頭に飛ぶ。

「びゅーは!?ねえびゅーってば」

ばしばし壁山の頭を叩いたかと思えば、今度は顔をがぶりと噛む。

「うえっ、まも、こえ、きあーい」

そして今度は壁山のもじゃってる髪の毛の中に手をつっこみ始める。

「ぐりゅぐりゅこーえんだー」


無軌道な行動に一同目が点になる。
行動の意味も、言っている言葉の内容さえ推測も出来ない。


「…染岡クン」

「…おう、なんだ」

「僕、耳がおかしくなったのかな?
さっき有人クンの言葉は分かったのに、キャプテンの言葉はさっぱり分かんないんだ」

「…言うな」

「アンパンマンって言葉は分かったから日本語だよね?」

「…言うなっつってんだろーが」

「分かった!キャプテンは三歳より小さいんだね?
だから有人クンより謎な言葉なんだ」

「言うなよぉ!円堂が可哀想じゃねーかぁ!」

吹雪の素朴な疑問に染岡の円堂を想っての男泣きが、食堂の片隅で発動していた・・・。


 

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